接触

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「呪いの村? よしてくれよ、確かに辺鄙なところにあるけどさ」  男は開口一番、俺の質問を否定した。  その答えに男のグラスにビールを注いでいた手が止まる。  中途半端に注がれたグラスを男は待ちきれないように口に運ぶと、一気に(あお)った。 「沁みるねえ」  オカルト系動画配信者の俺はある『呪いの村』を調査している。  そこは界隈には有名な、入るのはおろか名を言うだけで呪われる、行方不明者の噂まである村だった。  だが底辺配信者の俺にとって、一気に名を上げるチャンスでしかない。  様々な情報網と金を使い、ようやく村の出身者という男を探し当てた。  しかし待ち合わせに指定された居酒屋に現れた男に、一杯食わされたと後悔した。  五十代くらいの男はくすんだ色の作業着姿で脂ぎって小汚く、おまけに猛烈に()えた匂いを放っていたからだ。 「けどやっぱ飲み慣れた日本酒がいいわ」  男があっけらかんと(のたま)う。  知らねえよ、と心の中で毒づきながらメニューを差し出す。上機嫌で受け取った男は素早く選ぶと大声で注文した。  始めこそのらりくらりと躱していたが、酔いが回り始めたのか、やがて男は饒舌に喋りだした。 「にしても、近頃兄ちゃんみたいなの多いなあ。ここ最近害獣が増えちまって、てんてこ舞いなのによ。あ、俺猟師やってんだけどな。だから変な噂立てられんの困るんだわ」  男の話す村の様子はごく普通の山村といった感じで失望感の増すなか、手ぶらで帰る訳にはと村の名前を聞いてみた。 「いいけどよ。でも言ったら呪われんだろ? くっだらねえ」  男が日本酒を美味そうに飲みながら(くさ)す。 「呪いって。今平成だぜ?」  よほど酔っているのか、俺は何気なく訂正した。  男が片眉を上げる。  ぐい呑みをテーブルに置くと、わざとらしく頭を掻いた。 「またやっちまった。?」  刹那、全身が粟立つ。 「ま、遅かれ早かれか。なんたって俺の仕事は」  (うろ)のように(くら)くなった男の眼に、赤い光が宿る。 「の駆除だからよ」
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