19.繋がり

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トメに向かって正座をし頭を下げ始める桜葉。 ゴクリと唾を呑み込むと続けて弱々しくも強い決意のある声を放ってきたのである。 「あのっ、今回お見合いを断ったとしても、院瀬見さんをこれからもハスミ不動産で働かせてくださいっ。 院瀬見さんはハスミを辞めるつもりでいます、でもっ…彼はこの仕事が好きだと思うんです……だからっ──」 (……本当に、なんて一人よがりで身勝手なお願いなんだろう。別に院瀬見が私に頼んだことでも何でもないのに余計なことをして) 昨晩、岳から全てを打ち明けられて自分も何か岳の役に立てないだろうかと考えていた。 しかし今の桜葉にとって岳の二十年という悲しくて深い月日に、何かをしてあげられるほどの器量を持ち合わせていない。 でも……もし、桜葉が一ノ瀬会長の孫だったのなら── せめてハスミ不動産を岳が辞めることのないようにすることはできないだろうかと考えたのである。 とても卑怯な手だ。 でも、例え他力に頼って情けない姿を晒したとしても……桜葉は岳を助けたかった。 岳がいつも桜葉を気にかけ助けてあげたいと思ったように、桜葉も何かせずにはいられなかったのだ。 けれど、桜葉は途中で言葉に詰まってしまった。 しばらくトメと桜葉の間には無言の空気が流れる。 その間もトメは沸いた湯を急須に入れお茶を注ぎ入れている。 そして二つの湯呑みを居間へと運び、その一つをそっと桜葉の前に差し出したのだった。 「──安心したよ」 「……えっ?」 「さよちゃんにも大事な人が、守ってあげたいと思う奴が出来たんだなと思ってな。 ……ほら、さよちゃん前に話してたじゃろ、しばらく恋はいいんだって」 (…そうだ、あの時私はそんなことを言っていた。舌の根の乾かぬうちに、今はもうこんなにも院瀬見さんのことが好きになってしまってる) 「本当ですね……まさか自分が()()()()()()、誰かを好きになってしまうとは思いませんでした。 ──あ…えっと、それであの、院瀬見さんのこと…」 「安心なさい。確かに色々と行き違いはあったが、彼をどうこうしようとは考えとらんよ。彼さえよければこれからもハスミで働いてもらいたいぐらいじゃ」
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