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書斎に行くとそこには知らない青年がいた。本の塔が無数に立つ書斎で、その本たちよりも角ばった姿勢で畳の上に正座をしている。
丸刈りの頭に太い眉。書生風の格好は編集者には見えない。いったいなにものだろうとひさは内心首を傾げるが、紫陽は顔見知りらしく「ああ、やっぱりあんただったかい」「紫陽殿。ご無沙汰しております」と挨拶をかわしていた。
「ふん、すこしはましになったな」
着飾ったひさになにか云ってくれるかと思ったが、螢雪はすこし眉を動かしただけで終わりにしてしまった。適当に座れ、と本ばかりで窮屈な部屋で云う。
仕方なしにひさは紫陽と一緒に入り口のそばに座った。なぜ胸がちくっと痛んだのだろうと疑問に感じながら。
「野良、紹介しておく。こいつは石丸だ。俺が英語塾に勤めていた頃の塾生で、いまは諮問探偵をしている」
しもんたんてい。聞きなれない言葉にひさはきょとんとするが、次に螢雪が石丸に対して云った科白は部屋にいる全員に衝撃をもたらした。
「──石丸。こいつはひさという。
俺の婚約者だからおまえもそのつもりで接しろ」
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