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10年前、男…河野蒼生が高校を卒業した、あの日以来一度も会っていない。
それなのに、2学年下の私たちの学年でも語り継がれたほどのイケメン集団は、私たちの同窓会でも名前が出るほどで忌々しい。
今だって、顔がいいからって許されるとでも思ってるの?朝っぱらから職場の真ん前でキスする男なんてろくでもない…そこは相変わらずだ…
「フッ…考え事をする余裕があるってことか…楽しみだ、史華」
しっとり感の匂い立つような、しっかり唇を合わせるキスの最後に小さく舌を出して私の唇の内側をなぞった男は、そっと私の髪を撫でた。
…っ…
楽しみだ、の意味も優しい手付きと溶けるような眼差しの意味も分からない。
「…ぅ…ったえて…やる…」
「うん?誰が誰を訴えるんだ?」
私がアンタを、に決まってるでしょ?と叫んだのは心の中でだけで…
「…私が…蒼生センパイ…を…」
ああああぁぁぁ…ヤダやだ、ヤダやだ、ヤダッ。センパイ呼びは嫌な記憶を一気に呼び覚ますのよ。
「ちょっと待って下さいっ…」
「うん、まだ早いからいくらでも待つけど?」
おぉ、仕事のことはちゃんと考えているのか。
「あの…私…今日が転職初日で…」
「みたいだね」
「…知ってたの?」
「史華だとは知らない。誰か来るとは知ってたよ」
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