幸せな村

　ずいぶんとご無沙汰してます。
　お元気ですか？
　私がそちらを離れてから、早いもので一年が過ぎようとしています。
　ここの村はとても素晴らしいです。移住を決めて移り住んだ当初は、村の皆さんは誰も姿を見せてくれなかったので、正直「失敗したな」と思いました。けれど、私が苦しみながら自家農園の作業をしていたら、一人、また一人と、村の方々が顔を出してくれました。
　最近では村の方々が「時がのろのろ経つのを待てば、いつの間にか苦しみは終わってる」と、口々に言ってくれます。

　一度、遊びに来ませんか？

　都会の喧騒から離れてみると、慌ただしかった日々が嘘のようです。
　ここでは時間の流れがゆっくりで、住人の皆さんもお元気で、歳を取らないかのように若々しいです。
　移住者は私だけでなく、他にもたくさん居ます。
　ここはいい所なので、皆、口を揃えて「もう前の場所には戻れないね」と笑っています。
　食べ物もこの土地のものばかりで、素晴らしいですよ。やはりそんな物を食べているせいなのか、私もそちらを出てから、見た目も何も、気にならなくなりました。
　あなたも来れば、きっとこの村から出たくなくなると思います。

　いつ頃なら遊びに来れそうですか？

　村の人達も、外から来る人間を大歓迎しています。ここは村の方々がずっと一緒にいますから、寂しくないです。
　だから、あなたも是非来てください。本当に、心から来てくれるのを願ってます。

たのしみにしてます。
ステキな所で気に入りますよ。
喧騒(けんそう)を忘れますよ。
てがみをください。

早く来てください。

のんびりできますよ。
ろじ裏に猫がいます。
うめの実が採れました。

会いにここに来てほしい。
早く来て。
早く来てください。

早く、はやく早く来てきて、ねえおねがいおねがい。

……ごめんなさい肝心な事を忘れてました。

あなたは村の名前も道順も知りませんでしたね。

ここまで読んでくれたお礼に、2時44分に迎えに行きます。

鏡を上向きにして、待ってて──