天才作曲家の死

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天才作曲家の死

『作曲家の如月奏さんが亡くなりました。43歳でした』 普段ならば、付けっ放しにしているテレビの音声なんて耳に入って来ない。 箱の中から聞こえてくる言葉に身体が反応したのは、 アナウンサーが話す後ろで流れている音楽が、自分のよく知る旋律だったからだ。 『如月さんは中学生時代に発表した楽曲で一躍脚光を浴び、その後は映画やドラマなど様々な作品に楽曲提供するようになりました。 天才作曲家として如月さんは高い知名度を誇り、国際的にも活躍——』 そんなことはどうだっていい。 そんなのは彼のファンならば誰だって知っている。 どうして如月奏は亡くなってしまったんだ? 享年43歳。 死ぬにはまだ早過ぎる年齢じゃないか。 これから先の30年、40年、あるいはもっと先の未来で—— 彼が生み出すはずだった音楽を聞くことは、もうできなくなるのか? テレビ画面に、如月奏の生前の写真が映し出される。 顔立ちは人形のように整っているけれど、どれも無機質で無愛想な表情をしている。 如月奏という人物は、メディアに自身については一切語らないことで知られている。 私生活はもちろんのこと、どんな思いでその音楽を作ったのか、どんな風に作曲をしているのかといった話もしない。 だけど、彼の作った音楽を知らない人はいない。 著名な作曲家の早過ぎる死は、それから暫くの間、連日メディアに取り沙汰されることとなった。 ——数ヶ月が経ち、テレビでの報道が落ち着いて来た頃。 皐月響は、未だに如月奏の死を受け止めきれないまま暮らしていた。 如月奏がどんな人間だったのか、俺はよく知らない。 会ったことも話したこともない。 だけど俺にとって如月奏は特別な存在。 彼の音楽が、俺の人生を作ったといっても過言ではないからだ。
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