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「お前妊娠中なんだから、一人で抱え込んだら身体に悪いぞ?」
「わ、わかってます……」
「俺でもいいし親でも友人でも、吐き出すだけでも楽になるんだから」
「…………」
部長はそう言ってくれたが、椿から離れる事を望んだのも自分だし、それに至った全ての経緯を話したところで、責められるのは繭か椿。
一人で育てられる?責任持てる?と自問自答し続ける日々なのに、更に追い詰められるような事があったら心を保てる自信がない。
それに椿の事をよく知らない人の、椿を責めるような言葉を聞かされるのは、繭にとってはもっと耐えられないと思ったから。
「本当に、大丈夫ですよ……」
「……里中」
そんなつもりはなかったけど、胸の奥がちくりと痛んだそれは、嘘をついた時に感じるものと似ていて。
あの日以降、小さな痛みが徐々に積み重なっていたことに、繭は気付かないフリをした。
だから、ついにそれは起こってしまう。
「じゃあ産休時期はこの辺で調整して……」
「っ……」
「里中?」
「……部長、ちょっとお腹……痛くて」
「えっ!?」
座っていた繭が突然前屈みになりお腹を抱える仕草をしたので、向かいに座る部長は慌てて立ち上がり繭の肩を支えた。
痛みで表情は歪み額には汗が滲み出てくると、さすがの繭も初めて感じる痛みに良くない状況であると理解する。
「おい病院行くぞ!救急車!?いや社用車出した方が早い!」
「……っすみません」
「エレベーターまで歩けるか!?」
「はい……」
幸い面談室の目の前にエレベーターがあり、部長に支えられながらすぐに乗り込む事が出来た繭。
一階に到着するまでの間、痛みの波に襲われながらも繭は必死に耐えており、部長はスマホを取り出して病院までのルートを検索しようとした。
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