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エラは、礼の姿勢を保ったままガイウスを見送っていたが、胸の内は感謝で一杯だった。
ガイウスは、公衆の面前でエラを「エラ・リウゥウス次官殿」と呼んだ。そのことが、どういう効果があるか分かって彼はそう振舞った。
エラは官吏の世界で、行政官に次ぐ地位である次官であるにも関わらず、男尊女卑の王宮の中で「おい」とか「そこの」とか、良くても「デニス殿のご息女」とか呼ばれるのだった。
軍のトップで貴族の有力者として王宮に君臨するガイウスが、きちんと名前・役職・敬称をセットで呼ぶことで、それが正しいことなのだと周りに思わせてくれた。
エラが指定の時間にガイウスの執務室に行くと、礼服の上着を脱いで、椅子でぐったりしているガイウスがいた。
エラの顔を見ても、「おお」と言うだけで、姿勢を直さない。
「お疲れのようで」
「ああ…。また一つ、年を取ったよ」
「新年ですからね。それで、ご用向きは何でしょうか?」
と、エラは訊いた。
聞かなくてもだいたいの内容は予想できたが。
「…その、彼女の様子はどうだった?」とガイウス。
(やっぱり)と思ったエラであったが、表情を変えず、
「大変、お健やかでございました」
と言った。
「それだけか?」
「…気になるなら、お会いすればいいのに」
「できるならそうする」
そう言ってガイウスは、そっぽを向いてしまった。
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