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ホテルの慣習
このホテルには妙な慣習があった。
ベッドサイドに置かれたメモ用紙に部屋の感想や要望等を書き、退室時にサイドボードに置かれた透明の小瓶に入れて帰る、というものだ。
考えたのは先代のオーナーで、気づまりになった男女の話のネタにでもなればいい、と始めたという。
実際には半分以上は悪戯書きか苦情紛いの殴り書きだったが、ごく稀に、まともな意見であったり、内装に関する感想が書かれたものもあった。小さなメモ用紙だから、長々と書かれたものは無い。ひと言、ふた言だが、こうして掃除に回る俺ともう一人のパート女史にとっては、一瞬気が紛れる瞬間でもあった。
時代は変わり、若者のニーズを反映して随分と小奇麗になったこの『ホテル・オーキッド』だが、ラブホテルである以上、廊下も含めどこか拭い去れない暗さがある。こういった場所で行われる営みは昔も今も、変わらないからだ。
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