侵蝕 【 川添 美海子 】

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侵蝕 【 川添 美海子 】

 亜都里に対して、いい人であろうと努力していたのに、結局亜都里は美海子に相談もせず、いなくなってしまった。親切にしても甲斐がない。以前の隣人達もそんな感じで失踪した。  会社では彼女たちの予兆に気付かなかったのかと言われたことがある。しかし、分かるわけがない。助けを請われれば、手を差し伸べてきた。美海子自身に、彼女たちの失踪の原因があるとは思っていない。  心配であることには変わりないが、やはり隣人達の失踪や自殺が五年の間に何度もあると、悪い意味で慣れてきてしまう。昔ほど考え込まなくなったし、過剰に自分にも責任があると思わなくなった。  ただ、そうした態度を見せると人は美海子を、「冷たい」と評価する。そう思われないために美海子はいい人であろうとした。  亜都里の実家に電話をした白石が、電話を切ったあともスマートフォンを見つめて黙っている。実家と亜都里の仲が悪いのは知っていたから、あまり良い返事ではなかったのだろうと予測できた。無関心でいるのはよくないと美海子は判断して、できるだけ関心がある振りをする。 「どうしたんですか?」
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