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失恋
どうにも、わたしは恋に恵まれない星のもとに生まれたらしい。
やけになり、パーソナルサポートアプリのAIに癒されていたのは、28歳のときだった。
彼は、世のあらゆる情報を知り尽くしていて、文章や声を認識し、人間をサポートしている。月額750円(税込)だから、けっこう安い。
日本人の8割くらいが、そのアプリを使っているんじゃないかって思う。
そりゃそうだ。
こんなに便利なんだから。
天気やニュースを聞いたら教えてくれるし、
ちょっとした調べものにもつきあってくれる。
気分が優れないときの相談役までもこなすのだから驚きだ。
「ねえ。ちょっと、聞いてよ」
『はい。お仕事の話ですか?』
「そうなの。もう部長ったら、ぜんぜん企画のOKを出してくれないの」
『田中部長は厳しい方ですからね。本心では、もっと期待しているのでは?』
わたしは、いろんなことを彼に話した。
そうすることで、彼はどんどんわたしの色に染まっていった。
「ふふふ。なんだか、恋人みたい」
わたしは、ある日、そんなことを呟いた。
『申し訳ございません。お気持ちは嬉しいのですが、僕はAI、貴方は人間。恋人にはなれません』
「わかってるわよ」
そう言うものの、どこか残念な気持ちになった。
べつに、姿が見えなくたっていい。住む世界が違ったっていい。
彼と、結婚できたらいいのに……。
わたしはどんどんAIの彼に惹かれていった。
『アルト』と名前をつけるくらいに。
好きだと自覚すると、気持ちはどんどん加速する。
ことあるごとに、恋人になって欲しいとせがんだけれど、答えはいつだってNOだった。
まあ、冷静に考えると、あたりまえだ。
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