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検証資料6:渡敦思から、獄中の川上由都への手紙
この国の運命通知事業が正式に終わりを迎えて、ようやく人々は前を向き始めたところだ。
私はといえば、国内外のハッカーを手当たり次第に探した。
“うんめい”のコピーでも、真似て作った亜種でも何でもいいから、未来予測プログラムを通して、極秘処遇となったあなたのその後を知る術がないかと。
なりふり構っていられなかった。
結局、あなたの協力者だったという、元運命省の瀬羽という男の力を借りた。
それで、あなたがもうすぐ、次の春を待たずに病死すると知ったのだ。
制限を超えた運命判読によって膨大なデータに脳損傷を負ったと。
あと、3ヶ月と。
聞いた。
積極的治療は受けないと聞いているが、せめて痛みを和らげ、苦痛を少しでも減らして過ごしてほしい。
結局、私は運命を使った。
運命を否定しきれなかった。
私の負けだ。
あなたが私に告げた運命はあまりに重い。
それでも、あなたの選ぶ言葉のひとつひとつに、人間を信じる心を見た。
人の人生は、こんなにも美しく、小さな幸せに溢れていると。
過酷なこの運命を、どうか自らの力で生き抜いてほしいと。
己にしか生きられないのだからと。
そう願いを込めて書かれている。
だから、私はあなたの言葉を信じて背負おう。
あなたが最後までそれを背負うように。
この手紙があなたの元に無事届くかは分からない。
もしくは、あなたはもう手紙の中身を知っているのだろうか。
一度も会うこともなく、言葉を交わすこともなかったのは、私の中で大きな後悔となっている。
まぎれもなくあなたは、私の運命の相手だった。
どうか安らかに。
あなたの信じた幸福が、あなたの元に訪れるように、祈っています。
終
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