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検証資料5:川上由都による渡敦思への運命通知(復元データ)
“運命技術推進大臣は運命を使って金儲けしようとしている。
そのために“うんめい”のシステムを非公式に改変した。
大臣推薦の運命通知事務所はその共犯だ。
しかしこれは安全に未来予測システムの国家事業導入を完了させたい欧米諸国の思惑に踊らされた結果だ。
いわば、この国は実験させられたのだ。
そして失敗だ。
運命は一点の矛盾もなく整合すること。
運命は全て秘されることなく詳らかとなること。
この禁忌が破られたために、運命は破綻した。
もはや信ずる価値はない。
私欲のために悪用される。
どんなに読んでも、この先運命が正しく用いられる未来は来ない。
運命は間もなく破壊されるだろう。”
もしもあなたが運命の価値を受け入れ、この通知を読むならば、あなたは望み通り運命を滅ぼすことができる。
そして、あなたがこれを読むことも、すでに決定しているのだ。
あなたを担当する運命判読士は、運命省より与えられた“うんめい”使用権限を濫用し、不必要に広範囲かつ長期の運命判読を行った罪で起訴される。
資格は永久剥奪され、また判読士が不正に読んだ年数分の実刑、すなわち200年に渡る禁固刑を受ける。
あなたはその判読士のニュースを知って、自分の運命の相手だと名乗っていた者と気づき、初めてこの運命通知を読む。
そして汚職の情報とその裏にある諸外国の工作をリークして“うんめい”システムに大きな風穴を開ける。
あなたが定期運命通知メールを、目を通すことなく消去することは分かっている。
判読士は他の担当国民同様に定期運命通知メールには白紙を添付している。
そしてあなたがニュースを知る頃に、紙媒体でこれをあなたへ送付するよう、協力者である運命省担当者に伝えてある。
あなたがリークした情報により、運命反対派は世界各地で勢いを増し、運命システム輸出事業は白紙に戻る。
国内の運命通知の信用も地に落ちる。
運命事業も黒字にはならず、運命判読士たちは職を変え、多くの運命判読事務所は廃業する。
国民は運命を疑い、迷い、悩み葛藤し、自らの意思の脆弱さに困惑する。
そしてあなたは、国民を導くだろう。
他者を探り、思いを打ち明けあい、矛盾するいくつもの意思を抱えながら、妥協点を探して選択するのだと。
それこそが幸福につながると。
未来の暗がりに目を開いて進もうと。
あなたは時代の英雄となる。
判読士である私は、運命を滅ぼした裏切り者として語られる。
それが私たちの運命。
すでに決められた、運命なのだ。
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