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運命の歯車までもが、不器用だから
*急いでる時、街角でぶつかった彼が、運命の相手?
*待ち合わせに来なかった彼氏に悲壮していたら、雨まで降ってきちゃって、そんな時そっと傘を差してくれた初対面の男……運命の相手?
*急に体調を崩してうずくまっていたら、ちょっと強引だけどお姫様抱っこで保健室に運んでくれた男子は……運命の相手?
*図書館で黙々と読書に没頭していたら、いつの間にか閉館時間に。なのに何も言わずに本を読み終わるのを待っていてくれた図書委員の先輩は、運命の相手?
*ぼんやり考え事をしていたら、柄の悪い不良の集まりのど真ん中を通り抜けようとしていた。その時リーダー格の男にぶつかって、大事なアクセサリーを壊してしまった! 弁償しろと迫る強面は……運命の相手?
*女子からいじめを受けていた現場を新任教師に見つかって、匿われた。優しく接してくれる先生は、運命の相手?
*甘えん坊で可愛い幼なじみだったはずの年下の男の子。同じ高校に進学して見せたその顔は、昔の面影と違いイケメンに成長!? 壁ドンしつつ攻めてくるコイツは、運命の相手?
*昔からかくれんぼでどこに隠れても、家出しても、遠出しても、なぜか君には見つかってしまう。優しい笑顔で迎えに来てくれる。でも少し不思議に思っていたら、GPS発見!? こんなストーカー野郎は、運命の相手?
運命……って、なんだろう。
「決まってること? こうなることがキミの運命だったのさ、みたいな」
自分の机に突っ伏して、口を尖らせる。
何が起こるかわからないのが人生なのに、ワクワクしながら進んでいたはずなのに、結果決められた道を進んでいただけだった、そんな感じ?
人との出会いも、そうなの?
これだけ無数の人間がいて、彼と彼女はつながる運命、こっちの彼と彼女は破局、とか決まってるの? 神様は全てを見ている、知っているってこと?
机から身体を起こして、椅子の背もたれに背中を預ける。押し付ける。椅子の前足を浮かばせて、ゆらゆら揺する。
長い髪がぱさぱさと、背もたれを叩く。
べつに神様を信じない訳じゃない。神頼みだってする。欲しかった限定品のグッズをラストワンで手に入れられれば、これが運命なんだと思うかもしれないし、神様に感謝もするだろう。
椅子を揺らすのを止めとき、髪の毛の先が背もたれに引っ掛かった。ツンと頭皮が痛みを訴えかけてくる。髪の毛に手を伸ばした瞬間、床から足が離れて、ぐらりと身体が椅子ごと後ろに揺れた。
「うわあぁっ」
「おわっ!?」
ゴスッと音がして椅子が止まり、私の仰向けになった視界には、痛みに顔を歪ませ、驚きで顔を歪ませ、次第に怒りで顔を歪ませていく、同じクラスの男子の一人が。
おそらく彼の左足膝の辺りに私の椅子の背もたれがヒットしたのだろう。しかも私の全体重がかかった背もたれが直撃してなお、そのまま押さえ耐えている。
「これも、運命か……?」
「バカなこと言ってねぇで、起きろ!」
物思いに耽ったままの私は、思わず言葉を発したらしい。怒鳴り返された。当たり前だ。きっと左足、痛いだろう。しかし。
「ごめん、振り子の軸が完全に後ろに片寄ってしまって、自力ではなんとも……動けない状態だ」
「長ったらしく解説入れてんじゃねぇよ! 起きれないって一言言えばいいだろうが!」
またしても怒鳴られた。そんなに怒鳴らなくてもいいのに。
口を尖らせた瞬間、両手で背もたれを支えられ、ぐいーっと体制を直してくれた。でも引っ掛かった髪の毛はそのままだったので、自分で引っ張る。プチプチと何本かちぎれた音がしたが仕方ないだろう。
「……運命が、なんだって?」
地味に痛みを訴えてくる頭皮を撫でていると、椅子の後ろで男子はそう聞いてきた。振り返ると腕組みをしたまま、私を見下ろしている。
「ちょっと考えていただけだよ。運命って運命の相手って、どういうものかなぁって」
さっきは"バカなこと"とか言ったくせに、気になるんだろうか。意外とロマンチストなんだろうか、彼は。
「……destiny?」
「なんで英語にしたの?」
わざわざ英語にしてまで、他に間違いようのある単語ではないと思うけど。ちょっとおかしくて笑ってしまう。
彼は肩を震わせる私を見てどう思ったのか、顔を赤くしてそっぽを向いた。それからゴニョゴニョと口を動かしているようだが、私には聞き取れない。
「ごめん、ごめん。多感なお年頃の君達は、英語で話すのが格好いいと思う時期があるのは、薄々感付いていたけど……」
「どっから目線だ、それは!?」
あまり触れられたくはないだろうと、帰り支度をして、席を立つ。
「それじゃあ、また明日」
ひらりと振った手を、掴まれる。がっしりと。首をかしげて彼の顔を見ると、真っ赤な顔のまま、鬼の形相をしていた。クラスの女子達のみならず、他のクラスの女子達からも人気があるらしい整った顔の面影はかなり薄れている。もったいない。
「……なにかあったかな?」
「しらばっくれんな。……足が痛いんだが?」
歯を食い縛らんとする、というか奥歯が粉砕しそうな歯ぎしりが聞こえてきそうなきごちない動きで、彼の口は動く。
足が痛い……それは可哀想に……いや違う、それはもしかして、私の椅子が当たったせいか!
「それは申し訳なかった。しらばっくれるつもりは毛頭なかったのだけど、それは私の椅子が当たったせいだね」
「その通りだよ! だから、保健室行くぞ」
それは私も行かなければならないんだろうか。今の時点で両足で立っている姿を見ると、全く歩けないということはなさそうだ。むしろ今、掴まれた手を引っ張られ、廊下に連れ出され、歩いている。
なんだか保健室に連れていかれるのは私の方に見えなくもない。チラリと振り返った教室からは、何故か生暖かい目でこちらを見ているクラスメイトの皆さんの姿があった。
まるで私が保健室に、しかも彼と一緒に行くことが定められているかのような、みんな気付いていたみたいな。よかったね、おめでとう、がんばって……という声が聞こえなくもない。
保健室に何があるというのか。私を待ち受けるものが何かあるのか。それに出会うために私は行くのか。彼も一緒なことに意味はあるのか。
*偶然ぶつかったクラスメイトに、保健室へ連れていけと命令された! 彼に手を引かれ保健室へ行くと「ずっと君の事を見ていたんだ」と告白されて……これは運命?
「……え。これが運命?」
「責任だろ、バカヤロウ!!」
彼の左足はすっかり痣ができていて、彼がいいというまで私は、氷嚢を持ち冷やし続けた。
***end***
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