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中学生の村田カズマは、クラスメートの橘マコトのことが好きだった。
明るくて優しくて可愛くて、だからこそ学校でも人気者。まさしく高嶺の花。
そんなマコトとはクラスメートのよしみというだけでメッセージアプリのID交換をすることができた。
これでもっと親しくなれると思った。でも、そこからが問題だった。
カズマはどういうメッセージを送ればいいか悩みに悩んでいた。
「おはよう」といった挨拶の文章を入力しては消して、「今日の給食は何を食べた?」といった平凡な質問文章を入力しては消して、「今度の休日に映画でも観に行かない?」といったデートの誘い文章を入力しては消していた。
学校で会った時は普通に話せるのに、何故か変に緊張してしまう。
それは履歴が残ってしまい、何気ない言葉で嫌われるかもしれないと恐れていた。
もし、返信が無かったら、拒否(ブロック)されたら。それは耐えられない。
一方、マコトの方もカズマからメッセージが無いことに不思議に思っていた。
学校とかでは話しかけてくれるのに、現代っ子がメッセージを送ってこないのは逆に気になってしまう。
それじゃマコトがメッセージを送ればと考えたものの、大して仲が良い訳ではないクラスメート(カズマ)にどういうメッセージを送れば良いのか分からなかった。
「朝の忙しい時にメッセージを送ったりしても読まれないだろうし、そもそも挨拶なんて学校に会った時に言えるし、だからと言って誕生日とか趣味を訊くのも変だし‥‥」
ある日の放課後。
カズマとマコトは教室に残って、日直の仕事をしていた。
マコトは日誌を書きつつ、カズマは生徒の忘れ物(置き勉)が無いか机の中を確認していた。
二人きりの教室。
ふとマコトが口を開く。
「ねえ、村田くん。どうして、メッセージをしてこないの?」
「えっ? あの、えっと、その‥‥送ろうと思ったんだけど、どういうメッセージを送れば良いのか分からなくてさ‥‥」
「分からない? どうして?」
「どうしてって‥‥いや、そのなんというか。気軽にメッセージなんて送れる訳がないだろう」
「メッセージアプリの存在意義を根本的に否定する発言ね」
「そ、そういう、橘さんもメッセージを送ってくれないじゃないか」
「あー‥‥まあ、特に用が無いからね」
「それを言ったら俺もだよ」
正直に答えれば良いものの思春期。好きな人の前では素直に出来ないものである。
言った後で特大に後悔するカズマ。
このまま大切な要件でない限りメッセージを送れない状況になってしまった。
「大切な用件‥‥」
それならばと、カズマはスマートフォンを取り出して徐ろに操作し、暫くするとマコトのスマートフォンがバイブした。
メッセージアプリに1件受信していた。送信者は、カズマだ。
近くに居るのに話せば良いのにと思いつつ、内容を確認すると--
『大切な用件があって、このメッセージを送りました。君のことが好きです。一緒に勉強したり、話したりするたびに、君の優しさや面白さやかわいさに惹かれていきました。もっと仲良くなりたいし、もっと色んなことを一緒にしたいです。だから、もしよかったら付き合ってくれませんか。どうか、よろしくお願いします』
告白のメッセージだった。
マコトは思わず吹き出してしまい、声を出して笑ってしまった。
予想だにしない様子に戸惑うカズマ。
「えっ、あっ‥へ、変だった?」
「ふふっ。変というか何というか、最初のメッセージで、こんな内容が送られるとは思わなかったから」
「大切な用件でしかメッセージを送れないと思って‥‥」
「たしかに大切な用件だけどね‥‥」
「そ、それで、返事は‥‥ああ、いいや。別に今答えなくても良いから!」
ただのクラスメートだった男子から告白。
メッセージを送ってきた相手(カズマ)が目の前にいる。
マコトは自分のスマートフォンを操作すると、カズマのスマートフォンから受信音が響いた。
画面を確認すると、
『これからよろしくね』
短いメッセージがマコトから返信があった。
カズマは画面とマコトを何度も見返す。
「これって、どういう?」
マコトはカズマの顔を見て、ニコッと笑った。
その笑顔にカズマは照れてしまい、言葉が口から出ない。
『これからもよろしく』
とメッセージを返したのだった。
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