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プロローグ
「たぶん、水野夕夏さんは一度死んでいます」
え?
私が一度死んでいる? 真面目な顔をして倉田先生は何を言っているの?
「僕の事を頭がおかしいって思いますよね。しかし、どう考えてもそうとしか思えない。夕夏さんも僕も一度死んでいるんです。何が起こったか知りませんが、時間が戻ったんです」
時間が戻るだなんて、SFじゃあるまいし、笑ってしまう。
「倉田先生、今の話は冗談ですよね?」
「夕夏さんは誠くんの高校入試の合格発表の日の事を覚えていないんですか?」
「今は七月ですよ。誠の高校入試は半年以上先です。未来の事がわかる訳ないでしょ」
「やっぱり夕夏さんは覚えてないんですね」
「さっきから倉田先生のおっしゃっている意味がわかりません。それになんで私の事を下の名前で呼ぶんですか?」
「夕夏さんは僕と2人だけの時は倉田先生ではなく、亮と下の名前で呼んでくれました。時間が戻る前の僕たちは親しい間柄だったんです」
時間が戻る前って……。
話が全く噛み合わなくて、頭痛くなってきた。
倉田先生は国立難関大卒で優秀らしいけど、大丈夫なの?
「僕は夕夏さんをよく知っています。夏の夕方に生まれたから夕夏って名前で、子どもの頃の夢はアイドルで、辛い物が苦手で、甘い物が大好き。いつでも誠くんと健人くんの事を考えていて、一生懸命で、頼まれると断れない性格で、PTAの役員も本当は楽な所に行きたかったけど、頼まれて、役割が大変な学級長を引き受けたとか」
どうして知っているの? 名前の事も、食べ物の事も、アイドルになりたかった事も、PTAの事も倉田先生に話した記憶がない。
それに、なんで優しい表情で私を見るの?
「そんな夕夏さんだから、僕は好きになりました」
えっ……!
好きになった?
きりっとした二重の目で見つめられ、鼓動が速くなる。
「夕夏さん、好きです」
「ふ、ふざけてるんですか?」
声が裏返る。
イケメンで女性にモテる倉田先生から告白されるなんて、からかわれているとしか思えない。
「僕は真剣ですよ。真剣に夕夏さんを想っています」
一度死んでいるって言われた事よりも、倉田先生に告白された事の方が信じられない。
だって私、40のおばさんだよ。
なんでこうなった?
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