打ち捨てられた異国のひねくれ王子を拾いましたが今さら返せと言われましてももううちの子ですので!!

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* 「俺が誘ったのか? それとも……」 顔を歪めながら言いにくそうにイアンが呟いた。 「正直、覚えてなくて……でも私、彼氏に振られたばかりだし……たぶん私からのような気もしないでもない……」 いたたまれない気持ちになった。 私、伊勢香澄(いせかすみ)は、高校卒業後、社会人2年目にして、祖父の遺したアパートの管理人さんをしている。父母は私が小さい頃に他界し、その後おじいちゃんと一緒にこのアパートに住んでいたけれど、そんなおじいちゃんも1年前に亡くなって、私はひとりぼっちに。 けれど、このアパートの住人はみな良い人ばかりで、そのおかげで私はなんとか暮らしていけている。 『香澄、今日ランチはどう? あんたまたフラれたんでしょ? スムージーで乾杯しましょ』 同い年、大学生であり親友の高梨楓(たかなしかえで)からのLINE。 『寝坊して弁当作れなかったから行くー。ついでにフラれ乾杯もするー』 楓の大学と私のアルバイト先『ベーカリータナカ』の直線上に、いつも行くオシャレカフェがある。時間を合わせて、待ち合わせ。 私は時々そんな風に、楓とはランチしたり居酒屋で飲んだりしていた。 「四代目だっけ?」 「失礼なっ! まだ三代目じぇぃそうるだっつの!」 そうなのです。最近また彼氏に逃げられました。 「いつもながら愛が重すぎる、と」 「それな」 私は自分で言うのもなんだけれど、世話好きな方で。ちょっとしたことに口を挟みたくなってしまうだけでなく、あれやこれやと手もかけたくなっちゃって。得意の料理で胃袋を掴もうとし、彼氏のためにと思って行動したことが、ことごとく裏目に出るタイプ。最後には「おまえは俺のオカンか!?」と言われ、フラれてしまう。 楓は、まあいつものことよ次は四代目じぇいそうるよ! 乾杯! と完全スルー。大好きなブルーベリースムージーのグラスをカツンとして、忘れることにした。ひと通りお喋りして、楓の話題は変わる。 「それでねえ。あの例のごとく、アラブのイケメてる留学生王子なんだけどさあ」 「え? またなにかやらかしたん?」 楓がお水を一口飲んでから、話し始める。 「ん……それがさ」 噂は聞いていた。粗暴で横暴、ああ言えばこう言うの、困った中東の小国からの留学生がいると。 「そうなのよ。今度は教授と、これね」 楓が人差し指でペケを作る。 「そうなんだ。教授さまとやりあうなんて、ほんとすごいね」 「でしょ!? 私なら吐けんわ。あんな暴言」 私がミートパスタ、楓がハンバーグセット。ここのランチは盛り付けがオシャレで、私は家で料理を作るときに、いつも盛り付け方を参考にしたりしている。 「もうそろそろクビかもね」 親指を立てて喉元でスイっと。 「退学な……でもそれくらい酷いんだ。なんか人間性を疑っちゃ、」 言いかけた瞬間、楓の表情が変わった。人差し指を口元にもってきて、シッと小さく言う。 カランとドアベルの音と同時に入ってきたのは、なんと今噂していた張本人の王子さまだった。イケメンというよりは見目麗し系。で、もちろん長身。白い布を首に巻いている。なんという名前かはわからないけど、アラブの男性がよく身につけている象徴的なものだ。 ただ。洋服はふつーにTシャツに綿パン。 「やば。かっこよ」 私が小声で言うと、楓は澄ました顔でストローに口をつけ、グリーンスムージーをぞぞぞと飲んだ。 「見た目だけな」 彼は私と楓の座っているテーブルの1つ置いて隣の席に座った。 首をすくめる思いだ。噂をすれば影。こりゃ偶然がすぎるってもんだ。 で? ちょい待て。今なんつった? ご注文は? と言う店員に向かって、「なんでもいいから腹にたまるものを持ってこい」 持ってこいだ、は? なんなのその態度? 楓から話は聞いてはいたけれど、あまりにも態度がデカくて不遜すぎた。 目を見開いて楓を見ると、ジト目でちっと舌打ちでもかましそうな顔だ。
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