第一話 今後のことを、話しておきましょう

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 私の名前は実花(みか)風間(かざま) 実花。横浜市内の大学に通っていて、この春で3年生になる。  今は汐見台(しおみだい)という横須賀市の高台にある住宅地の一軒家でひとり暮らしをしている。  私が高校3年生の時までは、今の家で父と母と妹の4人で暮らしていたけど。  父が急な病気で亡くなってからは、母と妹は母の実家へ戻ってしまって。大学への進学が決まっていた私だけが家に残った。  頭の良かった父は、遺産を残したかった私だけがそれを受け取れるよう、生前に巧妙な罠を仕掛けてくれていた。  その罠は世間知らずな母や、まして妹になど気付かれるわけもなく…… って、私も最初は気付かずにいたのだけど。  父が信頼を寄せていた中古レコード屋の店長、神入(かみいる)さんのお手伝いもあって、ようやく気付いたほど。  神入店長は『ひまわり』というとても素敵なロックバンドでギターを弾いていて、今でも都合が良ければライブに行ったりしてる。  なぜ店長や『ひまわり』の人達と仲良くなったのかは、また別のお話で。  ふたつ歳下で現在高校3年生の妹、貴美(きみ)から久しぶりに連絡をもらったのは、つい最近のこと。  夜中に突然電話をしてきて。横浜にある大学の推薦枠をもらったから、またお姉ちゃんの家に一緒に住ませてほしい。と、ほぼ一方的に告げてきた。  まあ、私が嫌っているのは母であって。あの人に懐いていた貴美には何も罪はないし、私もそこまで妹のことを嫌ってはいない。  世間知らずの田舎の女の子がひとり暮らしをするよりは姉妹で一緒に暮らしたほうが、なにかと都合も良く安全だ。  と、考えた私は家に妹を招き入れることを決めた。あの丘の上の一軒家では、ひとり暮らしをするには広すぎる。  それに、元々家族4人で住んでいた家だ。妹にとっても生家なわけだから、住む権利はあるだろう。  そう思った私は空き部屋にしていた、過去に妹が使っていた部屋を提供することに決めた。
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