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4月は出会いの季節。
新しいクラス、新しい教科書、新しい学年、新しい出会い――
それらを象徴する桜の花が、私は羨ましい。
綺麗で、見る人誰もを魅了する。
「うーい!」
羽衣。名前を呼ばれ、私は顔を上げる。
「また考え事?」
「ぼんやりしてただけだよ」
あーちゃんこと、木村明日香ちゃんは、4年生の時に初めて同じクラスになって仲良くなった。
ぼんやり考え事の多い私のことを、「大人びてるね」と言ってくれるのはあーちゃんくらいだ。
私、冠城羽衣。
読書が好きな、ごく普通の小学生。
ついこの間、6年生になって、小学校最後の1年を迎えた。
私自身はとても平凡だけど、私の周りは少し非凡…だと思う。
大企業勤めのパパと、元アイドルの美人なママ。
そのママの遺伝子を色濃く引き継いだ、誰もが振り返る美人なお姉ちゃん。
隣に住む幼馴染はもっと非凡で、余計に私の平凡さが際立ってしまう。
「ね、今日の『ぴよりん革命』楽しみだから帰ろ」
ぼんやりと考えていると、あーちゃんに腕を引かれた。
教卓前でだべっているクラスメイト数名を残して、皆帰路についている。
「あ、そうだね。帰ろっか」
私は机の上に開きっぱなしで置いていたランドセルをしめ、椅子から立ち上がった。
教卓前のクラスメイトが、チラチラとこちらに視線を向けて来る。
なんだろ?
不思議に思っていると、彼らは顔を見合わせ、クスクス笑い、それからまたこちらに目を向ける。
あぁ――
何度も見た光景。
この感じを、私は知っている。
何度も、何度も何度も味わった。
私は彼らから目を背け、あーちゃんと教室の後ろのドアに向かった。
「ぎゃはは」
笑い声がひときわ大きくなる。
嫌な感じ。でも、気づいていると知られたら、エスカレートするかもしれない。
こういうのは、相手にしないのが1番いい。
教室の後ろ側のドアに着いたタイミングで、廊下から金髪の男子がやって来た。
彼はチラっと私を見て、それから聞こえるか否かくらいの小さな声で
「あほらし」
そう呟いた。
え?
私は戸惑って、振り向いた。
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