14.父親

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航太郎だけがいればいい…。 そう思って居たけれど、彼が夏帆(カホ)の気持ちに区切りがついて、 新しい恋を見つけて、好きな人が出来たと言うなら、応援したいって気持ちももちろんある。 けれど、オレは…本当の子供ではなく、 一部の地域では悪魔と呼ばれ、日本ではたこ焼きなんかにされる、タコ。 おとぎ話に出てくる人魚みたいに綺麗じゃないから、いつか捨てられるんじゃないかと思ってしまったんだ。 「( …颯真も…きっと、オレが人魚だと知れば、遊んではくれないだろうな )」 そんなに硬直するか…とばかりに石化してる颯真から目を背け、視線を落とした。 「 まぁいいや。獲って食べたりなんてしないから、さっさと出てけ。オレは入浴を楽しんでいるんだ 」 真水だろうが、海水だろうが…身体を水に浸けてる時が一番落ち着く。 タコの半身の状態では、狭いと思える湯船がジャストフィットして安心感もあるんだ。  父がいないから、尚更心寂しいのを誤魔化すように… 狭い中に入って、落ち着いてるだけかも知れないが…。 「 知る訳ないだろ…… 」 やっと喋った言葉に、無理ないと思っていれば颯真はしゃがみ込み、そっと湯船に張り付く腕の一本に触れた。 「 !? 」 「 教えてくれないと何も知らないままだ。それに…綺麗な色をしてる。黄色に青い水玉模様は可愛いと思うがな? 」 触られた事に驚いたが、其れよりも聞き間違いかと思うような言葉を聞いて、息を呑んだ。 「( 航太郎は、その言葉を言うのに少し時間がかかったのに… 颯真は、直ぐに言うなんて…… )」 胸の中が猫じゃらしで擽られたようなそんな感覚になって、顔が熱くなれば彼は笑った。 「 ふはっ、真っ赤になった。そうか…色素細胞で色が変わるし、擬態も出来るんだな。凄いじゃないか 」 「 …無駄に詳しいな 」 「 その位、常識だろう 」 常識なのか?と疑問になるが、人間はやっぱり色々調べていて感心すると思う。 尽きることのない探究心が、彼等を生み出しているのだろうな。 「 擬態か……得意になってるぞ? 」 「 ほぅ? 」 興味深そうな颯真を眺めてから、少し左手に視線を落としてから、僅か3秒以内に彼の姿へと完璧に変化した。 「 ……凄いな、普通に感心した 」 「 そうだろ?因みに声も変えれる 」 タコの腕は消え去り、容姿や声すらも颯真と瓜ふたつになれば、彼は小さく笑った。 「 他人から見た俺ってこんな感じなんだな。動く鏡を見てるようだ 」 「 ああ……流石、隅々まで見ただけある。かなり精巧だ。特に…コレは自信作 」 「 っ〜!ソコは…スルーしろよ 」 下半身に目を向けていれば、颯真は僅かに顔を赤く染め、腕の中へと顔を埋めた。 「 なにが、自信作だ…。自慢すんな 」 「 そうか?結構、出来は良いと思うがな。よし、見せてくるか 」 ザバっと風呂から上がり、颯真の横を通り過ぎれば、彼は焦ったように声を掛けた。 「 なっ、見せるって…誰にだ!?おい、待て! 」 脱衣場に行き、引き出しからバスタオルを抜き取って腰に巻きながら廊下に出ようとすれば、階段を上がってくる人物と鉢合わせた。 「 そーま、夏希とアイス……って、あれ? 」 風呂上がりっぽい怜桜は無地の白いTシャツに膝丈の黒いパンツを履いていた彼は、颯真とそっくりな俺を眺めてから、軽く傾げた後に何かに気づいたらしく口角を上げ、自身の着ていたシャツを脱ぎ始めた。 「 夏希、男の身体とは言えど…全裸は良くないよ 」 「 ……は?( なんで、バレた……? )」 脱いだそれを頭から被せて、普通に着せてきた事に驚いて傾げれば、颯真はやって来る。 「 だから待てって言ったろ。服を着てからにしろって言いたかった 」 「 服を……は??じゃ、なんだ…。御前は、俺だとすぐにバレると知ってたのか? 」 人間なら分からないはずの擬態なのに、颯真の言葉に困惑していれば、前に立っているVネックのインナー姿になってる怜桜は笑った。 「 颯真と匂いが違うから分かるよ…。なんせ俺…… 」 「 !!!? 」 緩く首を振った後に、その姿が民家にいるはずもなく、動物園でしか見ないような獣になったからだ。 軽く動いた太い尻尾と金色の鬣を持つ、大型の猫科は似合わない程にあざとくお座りをして招き猫のポーズをした。 「 レオ……ライオンって名前がついてるからね。ニャァ〜オ。なんて 」 「 はぁ…御前、バラすの…早すぎ…… 」 片手で頭を抱えた颯真は深い溜息を吐いてるが、俺は触ることない陸上の動物に興味を持って、驚きを通り越して鬣に触れた。 「 あ、案外…硬め…。え、すごっ…ホンモノ?マジモノ?? 」 「 ははっ、ホンモノだよー。まぁ俺…ライオンと言うか(ヌエ)なんだけど。今は、怖がらせないように獣感強めの方ねー 」 あはは〜と軽く笑ってる怜桜を気にせず、鬣やらリングピアスのついた獣耳に触れたり、厚みのある胴体を抱き締めては、背中に抱き着いたままハッと顔を上げた。 「 え、ってことは…颯真も、なんか…人外だったりする? 」 「 ピンポーン、正解。てか、俺等…兄弟はみーんな、人外だよ。だから夏希と一緒 」 「 一緒……そうなのか!!すごいな! 」 いつの間にか普段の姿に戻ったまま、怜桜の背中に乗っていればゆっくり立ち上がった彼に合わせて跨る。 特に気にせず怜桜は、無言の颯真へと顔を向けた。 「 颯真がなんの人外が知りたくない? 」 「 え、知りたい 」 ちらっと颯真へと視線を向ければ、彼は少し眉を寄せてから顔を天井やら横に向けた。 「 この家が壊れるから無理だ。とにかくデカいってことだけは教えてやる 」 「 俺みたいにちっちゃい姿になればいいのに〜。俺も通常の3分の1のサイズだけど 」 「 怜桜ってそんなデカいのか!? 」 「 そう、颯真程じゃないけど…鵺は妖怪の中でも大きめなんだよ 」 妖怪、と告げた怜桜に…なんとなく人間として生きているのに、死んでるような言い方をするんだなって思った。 それでも彼が笑ってるように見えるから、気にしないようにする。 「 妖怪…じゃ、颯真やヒーくん達も妖怪なんだ? 」 「 俺は、妖怪…とは違うが、まぁ…そんな解釈でいい 」 「 連れないなぁ〜。夏希の姿を見たんだから教えてあげてもいいのに。ねー? 」 「 んー…当てる楽しみもあるし、言わないのなら聞きはしない 」 ひょいっと背中から下りれば、軽く笑った怜桜は鬣を揺らした後に人の姿となって立ち上がり、さり気なくオレの肩へと片腕を掛けた。 「 すっごい良い子だね。俺なら追求しちゃうのに… 」   軽く笑った怜桜の腕から軽く逃れて、擬態の意味が無いと分かったなら服を着る必要があると思い、脱衣場へと向かう。 「 いい子かは…知らないが。御前等のことは結構気に入った 」 入る間際にニコッと笑って伝えてから、中へと入る。 「 ……全裸が平気な理由が分かったな 」 「 うん、気配から近い存在とは思ってたけど…まさか、クラーケンとは。良かったね?同じ海仲間 」 「 …知ってたさ。…俺を誰だと思ってる 」 「 ふはっ、だよね。知らない方が可笑しいか 」 颯真がなんなのか…オレには分からない。 これまで自分以外の人外を見たことないってのもあるが、存在しても気づかないものだ。   タコが使える程度の特別な力があるだけで、妖力や神力が分かるわけでもない。 人と遊ぶことを夢見た…元々は只の小さなタコだったんだ。 それが、人の身体を得て陸に上がってきただけなんだから…、知るはずもない。 「 夏希、アイス…一緒に食わないか? 」 「 食べる 」 まぁ…でも、彼等が人間の男じゃないってだけで、 少しは気分がいい。
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