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僕たちは悪魔
「あと一週間で、十六歳だね。夏美」
夏休みを明日に控えた放課後の教室は、燦々と輝く太陽を吸い込む。生徒達は弾けている。長期休暇とは、学業という柵からの解放である。
磯部当馬は、前の席に座る女子生徒を見つめている。骨格のハッキリした身体で。無骨な表情で。
夏美と呼ばれた生徒は、顔のパーツを繊細に動かして、微笑みを作る。
「うん」
神宮司夏美は、緑の黒髪をかきあげた。フローラルなシャンプーの香りが、夏の風にのって、当馬の心をくすぐる。露わになった白い頸には、三日月型の痣が浮かんでいる。
「神様の世界に行くんでしょ? 凄いなあ。とっても綺麗なところなんだろうなあ」
夏美を囲む女子生徒たちは、憧憬に瞳を煌めかせる。夏美は笑んでいる。笑むことによって、自身の瞳を見せないようにしている。
「神宮司さーん」
入口付近に立っている男子生徒が、夏美に手招きをした。彼の後ろには王子が立っている。十八歳とは思えぬ甘いマスクは、女子生徒の黄色い声を呼び起こす。王子の首には、太陽の痣がある。
夏美はとことこと歩いて行く。夏美と王子は何回か言葉を交わした。その最中に、夏美が何度か当馬を見た。顔は王子を向いたまま、流し目で。
そして、男が夏美の手を取った。当馬の頭で、赤黒いマグマが噴出する。そんなの知る由もないと、二人は教室を去って行く。
「月斗先輩、カッコいいよねー!」
「天野先輩と結婚できるなんて、ちょっと羨ましいかも」
女子生徒達のキャピキャピとした声が、当馬の憤慨の律動を加速させる。
同級生達が窓の方に集まった。校門に向かって歩く、夏美と月斗。二人を見ているのは、このクラスの人間だけではないだろう。全校中がそうであるはずだ。
「さすが、神様に選ばれた、運命のふたりだね。お似合いだ」
クラスの誰かが呟いた。
神宮司夏美と天野月斗は、神々によって、結婚を定められた二人なのだ。
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