2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
放課後、夕陽の差し込む空き教室でのわたしの告白に対して、滝谷先輩が返してきた一言は「ごめん」だった。この結果が想像できなかったわけではない。どちらかといえば地味で、勉強以外は上の下くらいという自意識しかないわたしが、先輩に告白するなんていうこと自体が無謀だったのかもしれない。
だって、先輩には彼女がいないっていう情報までは掴んでいたんだもの。ってことは、わたしが先輩のお眼鏡にかなわなかったということでしかない。そうじゃないなら高校生たるもの、大人になったらお金より希少になる青い春というものにむしゃぶりつきたくなるものなんじゃないのか。実際のところどうなのかは、先輩の口から聞いてみないとわからないけど。
「……そう、ですか」
「いや、別に岡崎が魅力的じゃないってことではないんだ」
じゃあ何。魅力的だったら付き合えるでしょうに。通販みたいに、最初はお試しでもいいですよ。返品交換はああだこうだと屁理屈こねて全力で拒否するけど。
「もしかして、もう彼女さんがいるとかですか」
「いや、いない」
なら、どうしてだよ。この際だから全部吐け。
さすがに堪えきれずに口から出ていきそうになったが、先輩のほうが一歩早く口を開いた。
「そもそもが、恋愛関係っていうもの自体が、なんかむずがゆいんだよ」
「むずがゆい?」
「関係性に彼氏彼女って名前がついたら、確かに楽しいことも多いんだろうけどさ。でも、それだけじゃないだろ。いろんなしがらみもできるし。仲良く過ごせるのなら、別に恋人同士にならなくたっていいんじゃないかって思っちゃうんだよな」
「だから恋人を作る気はないってことですか」
「まあ、そうかな」
許し難い。わたしという脆い容れ物の中で急速に膨張してゆく、恋愛感情という物質。それは頼んでもいないのに、いつからか勝手に体内で生成されはじめてわたしの胸をぎゅうぎゅうに満たし、今にも爆発しかねない。苦しくて夜しか眠れない。あっ嘘、授業中もたまに寝るけど。それは夜の寝不足を解消するためだから、実質的に夜しか眠れていない。もっとも夜に眠れたとしても、夢の中には先輩が出てくるから、結局は目が覚めた時に胸の鼓動はいきなり高鳴っているのだけど。
許し難い。この圧力を逃がすためには、先輩。あなたという存在がどうしても必要だというのに。というか逃がそうと思ってあなたに告白したのに。それにもかかわらず「好きだけど付き合えない」なんてよく言えましたね。好きなら何故あらゆる障害を跳ね除けて付き合えないんですか? 寝言は寝ながら言うからこそ「寝言」って言うんですよ。
許し難い。はっきりと熱を帯びる先輩に対する気持ち。発熱によって急激に膨張してゆくのは気体だけではなく、恋する気持ちも同じなのだ。なのに、先輩はどうしてそれがわからないの。というか自分で言うのもナンですけど、わたしはそれほど対人コミュニケーション能力に難がある物件ではないですし、見てくれもそこまで悪くはないと思ってますよ? 100人いたら8人くらいは青春真っ只中に生きる高校生の琴線にひっかけられる自信がありますけど。なのにわたしのことは好きだけど彼女にはできないって? どんな理屈?
許し難い。
いや。
絶対に許さない。
最初のコメントを投稿しよう!