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【第 段階】
「私の計算ではおよそこの戦いを八十年続ければ、暴走状態を超えて安定した力が根付くはずだったのですけれど。思った以上に子供たちの質が悪くて長引きそうですね」
実験の遅れは既に周知されている。こうして関係者で集まって会議をするのは約十年ぶりだ。寿命だけが伸びてしまった彼らにとって、他にやることがないのだ。楽園と呼ばれる全て管理コントロールされたドーム内で、争いのない環境で生きている彼ら。
生存競争がなくなった生き物はいずれ滅びる。それに気づいた彼らは争いとは何かを話し合い、原始的な武器などではない新たな力を求めた。変化を、刺激を、進化を。
自分たちのため? 人類のため? もしかしたら、ほんの少し退屈なだけだったのかもしれない。
「もう少し戦いを激化してみる必要があるのでしょうか」
人は極限状態にならなければ生き残る力を発揮できない。諦めた者より諦めなかった方が、嘆いて何もしない者より一歩踏み出した者。言われるがままに動くだけではなく、自分の頭で考え行動した者。そういったモノしか必要としていない。
「これ以上はもう激しくできませんよ、死亡する数があまりに多い」
「構わない。数の調整はいくらでもできる。極限状態の追い込み方が足りないのかもしれない。薬の効果を20%上げて投与してみよう。暴走状態のモノを五匹、中規模の国へ誘導しなさい」
家族の為、仲間のため、国の為、あなた自身のため。戦う事はあなたがここに生きているという証でもある。そんな言葉を囁き続け、この力の代償が一体何なのかあえて言わない。本当にこの薬は危険なものでは無いのかと疑問に思った子供は今のところ一人もいない。何故なら彼らは子供だからだ。
甘い言葉は薬となる。そしてそれは自らを滅ぼす毒でもある。毒は、薬。生きていることを嘆いたものは、力の暴走によってやっと苦しみから解放されるのだから。それは確かに救いなのだ。
炎は己を焼き尽くす。水は己を破裂させる。雷は己に向かって落ちる。癒しは体の再生を無限に続けやがて病を加速させる。
それは救いだよ、君たちをは苦しみから解放させるための。その言葉に、その甘い薬に彼らはすがる。苦しさを緩和するのが薬。誰もがその薬を求める。
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