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 芝崎3尉はみんなを見回した。 「諸君の言うとおりである。あのAIは日本政府の上位に君臨し、最高決議権をゆだねられている。その結果がどうだ? 国民の大半はAIの恩恵にあずかることばかりに終始し、デジタル難民に対する救済もおざなりになった。デジタル難民は就職もできず、給付もなく、小規模の企業は倒産し、病院で治療を受けることもできず、多くのアナログの人々が命を落とした。アナログ層が疲弊する一方で、デジタル層の富裕層は富を蓄積し、さらに暴君AIは富を拡大するために『国民安全デジタル管理法』を施行した。この法案の骨子は、アナログ層の人々もデジタル層の人間と同等の扱いを受けられることにある」  差別的な境遇に置かれていた人間もAIの恩恵を受けることができるというわけだ。ただその方法は暴力的で強制的だった。それを指示するのがAIなのだ。国もデジタル国民もAIを盲信していた。そういう風土が日本には出来上がっていたのである。  だが、アナログ層は真逆だった。AIに頼らず、古きを偲び、おだやかかな生活を尊び、今を生きる。不便かもしれないが、そこにはしたたかさと優しさがあった。  芝崎3尉は呼吸を整えると先を続けた。「ところで、汎用性セルフカードの本来の目的は何だと思うか、薄康太二曹」 「二つあります」薄は学校の授業で当てられた生徒みたいにドギマギしながら答えた。「国民の金融資産のすべてを把握するためであります。現在、日本政府の債務残高は334%と危機的状況です。国民の金融資産に財産税を課し、財政危機を軽減するための紐づけです。アナログ層にはアナログ的な手法で財を築いた者もおり、推計で18兆円の資産があると言われています。AIにはデジタル資産とアナログ資産の全てを凍結する権利が認められています。もう一つは、民間のAT産業向けのアナログ市民用のデジタル教育プログラム使用料、個人情報の金融化です。これらすべてを包括して、全国民を監視奴隷化することが、汎用性セルフカードの目的です。根源は暴君AIにあります」 「その通り。半年後には全国民の財産は差し押さえられるだろう。我々同志は、それを阻止し、国民に知らしめる必要があるが、話し合いでは収まりがつくまい。なにしろ私たちは自衛官だからな。ひいては、当初の計画どおり『暴君AI』を物理的に破壊し、日本古来伝統を礎にしたプログラム『菜の花』に書き換える。そのあと、国民主導の新内閣を樹立し、総理大臣に柳井貞夫氏を任命したい。作戦名は、古き良き郷愁への意を込めてと命名する。 本件は、命を賭けたクーデターである。興廃はこの一戦にあり。各員、一層奮励努力されたい。あだなす関係者及び護衛隊は射殺せよ。以上」
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