ノーラの意思表示

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ノーラの意思表示

「では、もう一つ。三日後に王宮で行われるお茶会と夜会に参加してもらう。伯爵以上の爵位、上級官僚などが集まる。お茶会では、社交界デビューする前の子息子女に向けてゲームや余興を行う。夜会は大人向けだ。ヘンリー、お茶会では……」 「バーナードさん、任せておいて。楽しみでならないよ。ぼくを楽しませてくれる子がいることを祈るばかりだね」  ヘンリーは、バーナードの言葉をさえぎり自信満々に言う。 「ヘンリー、油断するな。他の公爵や侯爵家には、優秀な子息や子女がいるから」 「うん。コリン、じゃなかった、父上。わかっている。油断は禁物だよね? ノーラ、どうしたの?」  ヘンリーがノーラに声をかけた。  彼女、なにかを訴えようとしている。 「きみは、ここでお留守番だ」  コリンが告げると、彼女はすでに美しいといっていい顔を左右に振った。 「いっしょに行きたいの? だけど……」  ヘンリーは戸惑っている。  彼女は、話が出来ない。いまのところは、だけど。  そんな状態で公の場に出れば、容赦のない貴族子女たちはいろいろな意味で彼女を食い物にする。  そうすれば、ノーラは傷ついてしまう。  だけど……。  ノーラみずから公の場に出たいと言っている。  もしかすると、彼女はわたしたちに気を遣っているのかもしれない。ただ世話になってばかりではなく、なにか自分に出来ることはないか。役に立てることはないか。必死に見つけようとしているのかもしれない。  たとえそうだとしても、彼女はみずからの意思でなにかをしようとしている。  それを踏みにじるようなことはしてはいけない。  それをいかすことこそが、わたしたち大人の役目。 「バーナード、コリン。彼女が自分の意思で行きたいと言っているのよ……」 「ミヨ、わかっている。バーナード、いいよな? ノーラには最高のドレスを着てもらって、お茶会で他の貴族たちに自慢するんだ。『うちのノーラです』とな」  コリンがそう言ったときのノーラのうれしそうな表情は、一生忘れられないかもしれない。  っていうかコリン、あなたの妻にも最高のドレスを着させてよね?  もちろん、わたしは大人だから心の中で叫ぶだけにしておいた。  このとき、わたしたちは知らなかった。  ノーラの秘密を……。
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