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ーガチャ。
いつものように車を開け、誠司さんが運転席、私は助手席に座る。
会社には、誠司さんと一緒に車で出勤する。
「歩実、忘れ物ない?」
「うん、大丈夫よ」
シートベルトをするために手を伸ばす。
…あ、れ?
シートベルトを伸ばして、助手席の位置に違和感を覚える。
わずかだけれど、助手席の位置がいつもより少し前になっている。
…誰か、乗せた?
でも、助手席に乗せる人なんて、私以外にいないはず…
私がここまで言い切るには、根拠がある。
それは、誠司さんとの結婚して1年目の結婚記念日に言われた言葉がある。
「助手席は歩実以外乗せない」ってー。
それ以来、接待や飲みの帰りに女性がいても絶対に助手席には乗せなかった。
だから、助手席の位置は私が楽な位置にしてあった。
流石に4年間乗っていたら、その位置に慣れてしまい、少しのズレでもわかってしまった。
「誠司さん」
「ん?」
私の呼ぶ声に鼻歌を歌いながら、エンジンをかける誠司さん。
「助手席に、誰か乗せ…た?」
私のその声にピタリと鼻歌が止まった。
恐る恐る誠司さんの顔を見る。
すると、ニコリと優しく微笑み、私の頭を撫でた。
「そんな訳ないだろ?
昨日、携帯を落として、ちょうど奥に入っちゃったから助手席を動かしたんだ。
元に戻したから大丈夫だと思って言わなかったんだ。
言えばよかったね、不安にさせてごめんね」
申し訳なさそうに眉を落とし、頭から離れた手。
「あ、ううん。大丈夫。
位置が変わっててびっくりしただけだから」
ニコリと誠司さんに笑いかけ、いつものように音楽をかける。
いつものように走る車。
優しく謝る夫。
特に違和感なんてない。
…ない、はずなのに。
誠司さんのさっきの説明がどうも引っ掛かってしまう。
携帯を落として奥に入った?
ー助手席の奥に?
そんなことはあり得ない、と決めつけてはいけないと理解していても決めつけてしまう。
だって、彼は運転席に座っているのだから。
助手席の奥まで携帯を落とすことがある?
昨日は特に飲み会もなかった。
仕事が終わった後、いつも帰ってきている時間に帰ってきていた。
なのにー?
いや、でも携帯が急ブレーキで吹っ飛んでしまっただけかも…。
ほら、私も時々やるでしょ?
誠司さんもきっと、それだよ。
ーうん、きっとそう。
私の気にしすぎなだけ。
そう自分に言い聞かせても、中々消えない違和感を持ちながら、誠司さんと一緒に会社に向かった。
でも、これが、誠司さんへの最初の違和感だったー。
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