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「俺は蒐集、陽文は享楽。つまり、人の人生を楽しみたかったということだ」
「……わかりやすいです」
物欲を優先していると語った紫水様は、堂々としていた。
その私欲を隠さない態度が、いっそ清々しい。
「人になれず、神でもなくなった我々は、あやかしと呼ばれる。あやかしから、人により近くなるため、人を知らなくてはならない……らしい」
紫水様は自分の手のひらをジッと見つめた。
私に説明してくれているけれど、紫水様自身もよく理解していないようだった。
「力を持つ人間の娘を妻にすれば、人に近しくなれるのですか?」
「たぶんな」
「それで、私が狙われているのですね……」
「そうだ。特殊な力を持つ娘との間に、生まれた子は、あやかしとしての力を失わない。あやかしたちは己の血筋と力を絶やさぬように、嫁としての資格を持つ娘を探し回っているってわけだ」
そんな事情があるとは知らず、私は不用意に力を使い、鴉たちに見られてしまった。
「一族を守るためでもある。あいつらが必死になるのも無理はない。このままだと、お前は鴉の嫁になるぞ」
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