1

2/15
212人が本棚に入れています
本棚に追加
/541ページ
お父さんと別れた後、お父さんからプレゼントとして貰った商品券が入った鞄を肩に掛け、両手で鞄の持ち手をギュッと握り締めながらオフィス街を駅に向かって歩いていく。 金曜日の夜、沢山の会社員らしき人達が、オフィス街の中に建ち並んでいるお店から楽しそうに出たり入ったりしている。 そんな光景を横目で見ながら早足で歩く。 早足で歩いているのに・・・ 「お姉さん、めちゃくちゃ美人だね!! これから予定ある感じ?」 またお酒の匂いがする男の人から声を掛けられ、それに小さく会釈をして歩き続ける。 「駅まで送るよ!! ・・・俺ちょっとこのお姉さん駅まで送ってくるから!!」 男の人が他の男の人達にそう叫ぶと、煩すぎる笑い声と応援のような声が聞こえてきた。 「私・・・これから人と会いますので。」 誕生日の夜、お父さん以外と約束はなかった。 でもしつこそうな男の人を振り切る為にそう嘘をつき、周りに建ち並ぶお店に視線を移した。 そして・・・ 「あのお店で待ち合わせをしているので、失礼します。」 そう言って早足でお店に入る。 お洒落な外観だけど小さめなラーメン屋さんに急いで入った。 そしたら・・・ 「ここで待ち合わせなの!? こんな美人なお姉さんをラーメン屋なんかで待ち合わせさせるとかどんな相手だよ!?」 そんなことを言いながらその男の人も入ってきてしまって、それには慌てながらカウンターの中に立っているお店の人を見た。 若い男の子で強面な見た目、でもサッパリとした良い笑顔で笑っていて。 「いらっしゃい!! 美味しいラーメン出すので試しに食べて行ってくださいよ!!」 男の子がそう言うと、男の人が「俺ラーメンには煩いよ?」なんて言いながら一緒に入ってきた。 それにも慌てながら店内を見た時、気付いた。 知り合いがいたことに。 約2年ぶりでこの店員さんよりは大人だと思われる男の子、来年の3月で24歳、今は23歳の男の子に声を掛けた。 「久しぶりだね、幸治(こうじ)君。」 カウンター席ではなく2人掛け用のテーブル席に座っていた幸治君は、私のことをゆっくりと見上げてきた。
/541ページ

最初のコメントを投稿しよう!