ep1

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ep1

エルヴェリア王国の、春の末のとある日。 空は雲一つなく晴れ渡り、太陽の光が燦々(さんさん)と降り注いでいる。 そんな麗らかな王都の午後。 宮廷魔法士であるイアンとセリスの二人は城下の見回りに出ている。 町の様子は平穏そのもので、特に変わりはない。 「天気が良いし平和だね!」 「フッ…天気関係ぬあるのかよ」 と、他愛もない話をしながら二人は町を歩いている。 時折、セリスは町民に声をかけられては微笑んで手を振り「困ぬった事はないですか?」と聞いている。 また、困ってそうな人には積極的に声をかけて手助けをしているようだ。 イアンは、そんなセリスを見て目元を緩ませた。 と、その時。中年ぐらいの髭面の町民が、おずおずと二人に話しかけてきた。 「セリス様、イアン様、実はここ最近、町の外れで、怪しげな人物が彷徨いていまして…。今のところ被害はないんてすが、不気味で。」 「怪しい人物…ですか」 「それはどんな?」 セリスとイアンが、髭面の町民から話を詳しく聞いた。話によれば、どうやら見たことのない黒いローブを顔まで深く被っている。そして1人ではなくて複数人いるとのことだった。 「うーん。見たことのない黒いローブの人物…か。イアンどう思う?」 セリスが顎に手を置き考える仕草をする。 「そうだな…。それだけだと何とも言えないが…今は被害はないようだが、野放しにしておくのもまずいかもな。」 「そうだね……。 分かりました。此方で調べてみますね。」 「え、調べてくれるのですか!?」 セリスが微笑んで言うと、髭面の町民は目を見開いて驚いた。 「はい!勿論です!任せて下さい!」 と、力強く言うセリスに中年の町民も安心したようだ。ホッと胸を撫で下ろした。 髭面の町民は「ありがとうございます!よろしくお願いします!」と言い、元いた場所に戻っていった。 イアンとセリスはその町民を見送り、再び町の中を歩き始めた。 そして、しばらく巡回を続けていると、城下町の一角にある平屋の小さな小屋のような建物の前でイアンが立ち止まった。 それに合わせて、隣を歩いていたセリスも足を止める。 「どうしたの? 」 「いや、ここ周辺、魔力感知器が強く反応しててな。」 「あ、本当だ。」 セリスが、イアンが持っている小型の魔力感知器を見ると、強い反応を示しているのが窺えた。 王国では誰しもが日常魔法を使える為、 僅かな魔力反応は常にあるのだが、今の反応は、普段のそれとは異なっていた。 「こんなに強い魔力は、普通の村人じゃあり得ないな」 「どうする?中に入ってみる?」 「あぁ、そうだな。さっきの話と関係あるかもしれないしな。」 イアンは、建造物の中に入ろうと扉に押す。だがしかし、何度ガチャガチャとしても扉が開けない。どうやら鍵がかかっているようだ。 「鍵かかってるな…。セリス、少し下がってろ」 「分かった」 セリスを少し後ろに下がらせると、イアンは扉に電流を流し込み、鍵を壊した。そうして、二人は建物の中に入った。中は薄暗くよく見えない。 「光球(ルミナスボール)出そうか?」 「あぁ…頼む」 セリスが小さめの光球(ルミナスボール)を出して、建物の中を照らす。そして、建物の中を確認する。 すると、そこには合ったのは古びた机や椅子、いくつのも棚があり、その棚には黒く光る魔法石と、ランプが置いてあった。それとは別に何やら怪しい壺もある。 「異様な魔力の原因は、これかな…?」 「あぁ…。十中八九そうだろうな」 セリスは、黒い魔法石を見ながら言うと、イアンは魔力探知機を、それに近づける。 魔力探知器はより一層強く光り、反応を示した。 「この魔法石って…」 「あぁ、これは……。闇魔法石だな」 「だよね……。でも、何でこんな場所に? この石は、一般の人が持つのは禁止されているはずじゃ。」 闇魔法石と言われる、その石は黒い鉱石のような形状をし、ゴツゴツとしている。 エルヴェリア王国では、闇魔法石は、その石を持つ人の心の闇や負の力を増強させる作用があるため、危険な物とされている。 その為、所持や使用、売買などが全面的に禁止されているのである。 「そもそも、この国じゃ入手すら不可能だ。誰かが他から持ち込んだのか?」 イアンは腕を組み考える。 「その可能性は高そうだね。どうする?城に持ち帰る?」 「そうだな。でも、その前に、もう少し中を調べよう。」 「了解」 そうして二人は、更に詳しく建物の中を隈なく調べていく。 すると、地下に繋がる扉が見つかった。 「セリス、見ろ」  「……扉だね。」 セリスは、イアンに言われてその扉に目を向ける。 「行くの?」 「あぁ…。見つけたからには放置は出来ないだろ」 「そうだね」 そう言って二人は扉を開け中に入ると、暗いレンガ造りの階段を警戒しながら下りていく。  そして、一番下に着き真っ直ぐに進むと、そこには巨大で異様な空間が広がっていた。その空間は、まるで洞窟のようになっていて、所々に蝋燭が立っている。更には、人口的な造りで、石の壁に囲まれている。 そして、一番奥の前には、大層な台座が置かれている。 その異様な光景にセリスとイアンは唖然とするしかなかった。 「何だ、ここは…」 「もしかして、ここって…何かの研究場所なのかも」  「だな……」 イアンが奥へと踏み出そうとした時、背後に気配がした。二人は、同時に振り向いた。 すると、そこには黒いローブの女がいた。
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