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そうして季節が過ぎ、秋が深まったころ、エラはガイウスから呼び出しを受けた。アリスターを使った、口頭での呼び出しだった。
秘匿性の高い会合には、口頭で呼び出されると聞いていた。エラは、身構えた。
アリスターが「失礼します」と言って、エラの手を取ると、彼は転移魔法を使って、北棟のさらに奥の訓練場の一室に跳んだ。
現地に着いたとき、エラは「ひやー」と声が出てしまった。転移魔法には、なかなか慣れないものだった。
部屋に着くと、質素なテーブルにガイウス、ダルトンそしてマリウスが揃っていた。ダルトンは、ペリクレス辺境伯の嫡男で、現在、ガイウスの側近をしている。
「エラ・リウィウス行政次官殿、忙しいところすまない」
ガイウスが、朗らかな声で呼びかけてきた。
「何事です?」
エラが怪訝な顔で近づくと、「まあ、座って」とガイウスが椅子を勧めた。
エラが椅子に座って顔を上げると、マリウスがこちらを見ていた。
マリウスは、無精ひげを生やし、少し痩せたようだった。しかし、懐かしい優しい目がそこにあった。エラも、目線で受け止めて、心の中で(お帰りなさい)と言った。
エラは、久しぶりに目にする彼が元気だったということに、ただ安堵するのだった。
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