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1 王都復帰
アーク王子の王都侵攻が成功したという知らせは、ダリル・リウィウス男爵の早馬によって、弟であり城主代行のデニスに伝えられた。
デニスは早速、領内の銀山の街プラトーに住む娘のエレンに知らせを出した。
「ここまで長かったが、最後はあっけないな…」
デニスは執務室で、窓の外を眺めながら、しみじみと語った。語っている相手は、娘のエラだった。
エラは、長椅子に腰掛け、デニスから渡されたリウィウス男爵の手紙を読みながら、
「争いが長引かないのは、良いことだわ」
と言った。
デニスは、ゆっくりとした動きでエラの前の椅子に座ると、
「私は、ダリルが帰ってくるまで動けないが、お前はどうする?」
と訊いてきた。
「うーん。姉さんたちが王都に帰るなら、一緒についていきたいわ」
とエラは言った。
故郷のリウィウスは大好きな土地だが、田舎で時間がゆったり過ぎる。王宮で官吏として頑張っていた時間が恋しかった。やはり仕事一筋のエラは、忙しくないと落ち着かないのだった。
「この『王都で多発的な火災があった』って書いてあるのが、すごく気になるわ。エレン姉さんのお店、大丈夫かしら」
「ああ…。問題があれば何か書いてくるだろう。ここで気を揉んでも仕方がない」
「確かに」とエラ。
「それよりも、王宮のほうが心配だ」
デニスは前回の政変も経験しているが、今回の政変は桁違いだった。
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