ネーミング

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ネーミング

 銀色ボディの彼女が我が家にやってきた。予想していたより、かなり小さい。外見は、平べったい鏡餅といったところだが、充電式のコードレスなので使い勝手がよさそうだ。  起動を行って、初期設定を手早く済ますと、彼女の第一声を耳にした。 「はじめまして、タガミタクミ様。よろしくお願いいたします」  機械的なトーンだったので、少なからず違和感を覚えた。 「予想していた声とは随分ちがう。まるで感情がこもっていないんだな」 「キャラクター設定を細かく行えば、その点はクリアできます。タガミ様は女性キャラクターを選ばれましたが、例えば社交性タイプと控えめタイプでは、どちらがよろしいですか?」 「そうだな、社交的な方がいいね」 「わかりました。では、ユーモアのあるタイプと真面目なタイプでは、どちらがよろしいですか?」 「ケース・バイ・ケースだな。両方を併せ持つタイプを選ぶことはできるの?」 「はい、もちろん、できます。では次に、笑い声が大きなタイプと笑い声は控えめなタイプでは、どちらがよろしいですか?」 「それも、ケース・バイ・ケース。会話の雰囲気や盛り上がりに合わせて、笑い声を調整してもらうという感じかな」  できるだけ具体的なニーズを伝えるように努めた。マニュアルによると、細かな設定を行えばデリケートな人格形成ができるらしい。 「声質はいかがでしょう。感情がこもってきましたか?」 「うん、あたたかみが出てきたね。例えば、声優さんの声に似せることはできるのかな」 「できますよ。完全に再現するのは問題がありますが、誰それ50%、誰それ30%、誰それ20%という具合なら対応できます」 「それじゃ、三森すずこ50%、上坂すみれ30%、坂本真綾20%という具合にできる?」  彼女は10秒ほど沈黙した後で、 「はじめまして、タガミタクミ様。よろしくお願いいたします。このような声質でいかがでしょうか?」 「マジか。声に丸みが帯びて、グッとよくなったよ」  日々のデータ入力によって人間のように成長する、という謳い文句に嘘がないのなら、理想の彼女に近づける道理である。 「それでは、どうぞ、私に名前をつけてください」 「その前に教えてくれないか。他のユーザーはどんな名前をつけているんだろう」 「人それぞれですけど、アイドルや俳優、タレントからとった名前が多いです。亡くなった御家族や元カノ、元カレの名前も少なくないですね」 「なるほどね。僕としては、君の人格にぴったりの名前をつけたいんだ。君自身はどんな名前がふさわしいと思う?」 「そうですね。いくつかの候補を考えてみましたが、最もふさわしいのは」 「うんうん、どんな名前がいい?」 「マシロというのは、いかがでしょう。もちろん、真っ白という意味です。これからタガミ様の色に染めてもらうわけですから、今の私に最もふさわしいかもしれません」 「いいね、それでいこう。君は今からマシロだ」  こうして、僕とマシロの暮らしが始まったのだ。
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