理想の彼女

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理想の彼女

 女は星の数ほどいる。間違ってはいない。だけど、一人の男が一生のうちに出会える女の数は限られている。理想の彼女に出会える可能性は、限りなくゼロに近い。  これは、33歳の実感である。これまでに6人の女性と付き合ってきたが、運命の出会いを信じられるほど、僕は楽観的にはなれない。  賃貸物件に例えれば、わかりやすいだろう。マンションのワンルームを探す場合、数多くの要素を考えなければならない。  部屋の広さ、家賃、日当たり、ベランダの有無、コンロは直火式かIHか、トイレとバスルームは一緒か別か、最寄り駅までの距離、スーパーやコンビニとの距離などなど。  すべてが理想通りという可能性は、ゼロだろう。いくつかの要素は妥協しなければならない。それができないのなら、賃貸契約を結ぶことは不可能である。  言いかえれば、数多くの要素を総合的にとらえて、妥協を考慮しながら、賃貸契約を結ぶかどうかを判断するわけだ。  女性に置き換えると、年齢、性格、ルックス、スタイル、健康、体力、会話の楽しさ、心の安定性、料理の腕前などの要素が、判断基準として挙げられる。  数多くの要素を総合的にとらえて、妥協することを考慮しながら、彼女と付き合うかどうか、結婚という契約を結ぶかどうかを判断するわけだ。  女性たちの声が聞こえてきそうだ。「おまえは一体、何様のつもりだ」と。このままでは反感をかってしまいそうなので、一応、弁明しておきたい。  僕は決して、日本一の美女やアイドルと付き合いたいわけではない。会話が楽しくて、そばにいてほしいと思える、そんな理想の彼女をさがしているだけだ。  そこで僕が目を付けたのは、AIキャラクター搭載型スピーカーだった。最新型には複数のAIキャラクターが設定されており、好みの人格を選ぶことができる。性格や声音の微調整も可能。しかも、しかも、データ入力によって人間のように成長するという。  理想の彼女に育てあげるのに、まさに、うってつけではないか。  かなり値の張る代物だったが、自分への御褒美として、思い切って購入することにした。
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