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 …――30万光年彼方の星から来た宇宙人が目の前に居る。  無論、恒星間航行を実現していない人類とは科学や文化のレベルが段違いな人種。  多分な。  まあ、どうやって、ここに来たのか、実は知らんのだけど。  UFOとか見てないし、いつの間にか目の前に居たからな。  しかも見た目は地球人と変わらない。変わると言えば服装が奇抜なだけだろうか。  では、何故、この奇っ怪な阿呆を宇宙人と信じたのかだが、それはヤツが俺の頭の中に、直接、語りかけてきたからだ。多分、超能力とかのテレパシーだとか言ったものに近いだろう。そういったもので30万光年彼方から来たと言われたわけだ。  まあ、そんな体験をすれば信じてしまうのは無理はないだろう。俺でなくともな。  知らんけど。多分、そう思う。  ともかく、ヤツから30万光年彼方の星から来た異星人だと聞いた時は小躍りしたよ。なんでも良いからヤツから異星人が使う道具を一つでも貰ってだな。ソレの使い方だけ聞いて、そのまま科学者にでも横流しすれば、ウハウハの大金持ちだぜッ!  それは本当に何でもいいんだ。  人類で言う100円ライターのようなもんだって良いんだ。  多分だが、100円ライターのような使い捨てな道具だろうと恒星間航行が出来るような宇宙人の持ち物なんだ。いや、それどころか30万光年だぞ。光の速さを超える事だって出来るようなヤツらかもしれない。それともワープ航法かもしれんが。  兎に角、  あり得ん技術を持っているヤツらだから、どんなものでも大金を生む宝なわけだ。  人類にとってな。間違いない。  俺は嬉しくなってタバコをポケットから取り出し、ちょうど話題に上った100円ライターを使ってヤニに火をつける。ドキドキして、はち切れそうな心臓と気持ちを落ち着ける為。ボッという音を立てて100円ライターに火が灯る。ふうっ。  落ち着く。逸る心が静かにも。  はぁぁ。 「ちょっと。ちょっと。それ、なによ? 今、火がついた?」  宇宙人が驚いて、100円ライターをマジマジと見つめる。  いやいや、単なる100円ライターよ? そこ、驚くとこ?  というか、今度はテレパシーではなくて口を開いてハッキリと言葉にしてきたぞ。  うぬぬ? 「すげぇ、すげぇ、親指でカチッとやったら火がついたぞッ」  なんだか、俺と同じくで話し方に癖があるヤツだが、まあ、それはいいとしよう。  それよりも100円ライター如きで驚きだしたぞ。なんだ?  ほよよ?  いやいや、火をつける方法という概念がない異星人なのかもしれん。うんっ。そうだ。それ以外は人類を遙かに凌駕するテクノロジーを持っていてだな。それを俺が貰ってだな。まあ、その先は、さっきも説明したし、くどいから割愛しておくぞ。 「てか、さっきから思ってたけど、その後ろにある固い鉱物で出来た黒い馬的なヤツって何よ? あっちでも白いヤツとか、銀色のヤツとか走ってるけど……」  なぬを?  単なる自転車だぞ。まあ、我が愛車なるママチャリだがな。  あっちで走ってるヤツは単なる自動車だな。カーだ。カー。  ピリリ。  今どき珍しく黒電話な音に設定してある俺のスマホが鳴る。 「ちょっとだけ待て。電話だ。話は後にしよう」  俺は話を遮ってスマホを片手に会話を始める。  ウハウハな儲け話の方が重要な気もするが、ライターに驚き、自転車を知らなかった阿呆に、いくらかの訝しげなものを感じてしまい、加えて、それこそ現実的に重要な商談の電話だったからこそヤツを待たせて馴染みの顧客との会話を済ませる。 「はい。抜かりなく。また宜しくお願いします」  ぴっ!!  電話を切る。そののち静かにヤツを見つめる。 「それ、凄いな。会話が出来るのか。ここにいないヤツと。まるでテレパシーだぜ」  俺は、もはや無言で、宇宙人をジト目で睨む。  コイツは本当に30万光年彼方の星から来た宇宙人なんだろうか。見た目は俺と変わらないし、コイツがUFOに乗って来たところを見たわけでもないしな。まあ、あの頭の中へ語りかけてきたテレパシーのようなものにもタネがあってだな。  コイツは奇抜な格好をした単なるマジシャンだと思い始めていたのだ。俺的には。 「てか、ハラが減ったぞ。豚骨塩ラーメンが食べたいんだが。美味い店しらんか?」  宇宙人は豚骨塩ラーメンを食べん。知らんけどな。多分だ。  うむっ。  やっぱりコイツは単なるマジシャンだったか。  30万光年彼方の星から地球に来る事が出来るヤバいほど文明が存在して、その住人から何らかをせしめてウハウハになる計画は今ここに頓挫した。まあ、残念ではあるが、それも、また人生か。そんな美味い話はないって事だな。よく分かった。  うむっ。 「だから美味い話はなくても美味い豚骨塩ラーメンの店はあるだろ? しらんか? 知っていたら教えて欲しいんだが。せっかく30万光年も旅して来たんだから」  まだ言うか。30万光年。それもまた一興か。  なんて言うか。阿呆が。死ね。 「おッ! あっちから美味そうな匂いがするぞ。豚骨塩ラーメンのかほり。うふっ」  というか、ちょっと待て待て。  お前、浮いてないか。宙にだ。  そのまま宇宙人は中空を舞う。くるくるくる。  そののちヤツが消えた。煙のよう掻き消えた。  俺の頭の中へと伝言を残して。 「俺らの星では魔法が発達したんだわ。魔法で瞬間移動も出来るし、空も飛べる。指先から火を出す事も出来るしな。もちろん、今の、この伝言はテレパシーだぜ?」  マジか。 「てわけで科学って言うの? あんたらが発達させたソレ。俺らには必要なかったから発達しなかったってわけ。でも精神力を使わず、色々、出来るのは羨ましいよ」  ハハハ。  もはや笑うしかねぇ。阿呆が。 「魔法を使うのは、とにかく疲れるからな。だから、そのライターっての頂いた。帰って好事家にでも売りつけるからさ。ウハウハなお土産をありがとうな。チュッ」  チュッじゃねぇッ! 俺じゃねぇか。お前ッ!  お終い。
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