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Track 1. 幕が上がる
二月の乾いた冬空の下にビル群が広がる。
歩行者信号の色が変わるのを待ち呆けていた一人の青年が、街頭のディスプレイ広告から流れる聞き慣れた歌声に気づき、思わず頭上を見上げた。
『ORIONから待望の新ユニットがついにデビュー!』
CMのナレーションが、画面の向こう側にいる消費者の購買意欲を煽る。
映像では十代から二十代の男性七人が歌とダンスのパフォーマンスを繰り広げていた。
新宿のど真ん中、十五秒のCMで一日十万円。リリースの二週間前から打っているとすれば、広告費はそれだけで百万円越え。
そう言えばここに来るまでの駅中にも、大々的に壁面広告や街灯タペストリーが展開されていた。動画広告の方が見る機会の多い時代だが、やはり現物の費用対効果は計り知れない。端的に「こんなに金をかけられるくらいこの人たちは注目を集めている」という印象を持たせることが大切なのだ。人気は生まれるものではなく作るもの。それもマーケティングの一つだ。
歩行者信号が青に変わる。だが青年はディスプレイ広告から目が離せなかった。
映像の中で、一人の男が曲間に綺麗な宙返りを披露する。
見慣れた横顔、耳馴染みのあるファルセット。だが洗練された衣装と楽曲で光り輝くその人は、全く知らない人物にも思えた。
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