その契約結婚じゃ、私は幸せになれない

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「今度、結婚退職することになったの」 週明けの月曜日。私は事務の中で最年長女性である明塚からそう報告を受けた。 明塚は現在32歳。長年彼氏ができなかったが、お見合いしてトントン拍子に話が進んだらしい。こちらが聞いてもいないのに、彼女はベラベラとプロポーズまでの過程を話していた。なにこれ、もうウェディングハイ? 私は、彼女のそんな嬉しそうな顔を見ながら内心氷のように身体が冷えていった。 「お、おめでとうございます……」 「ありがとう。それでね、私が担当してる仕事は如月さんと白河さんに任せたくて。いいかな?」 「え?」 ーーよりによって顔採用(しらかわ)と? 正直嫌だったが仕事だから仕方ない。 白河さん、と明塚が呼ぶ。 ふわふわカールした髪を靡かせながら、白河が私の横に立つ。 「はい?」 「私の仕事を今度、あなたと如月さんにお願いしたくて」 「あ、明塚さんご結婚されるんですよね。おめでとうございます」 白河は純粋なお祝いの目で明塚をみてる。 こんなに気持ちが荒んでいるのは私だけか。 私は、今の彼女と同じくらいの頃から婚活を始めた。最初は私も純粋だった。好きな人とずっといるために結婚したい。愛されたい。 婚活アプリや、婚活パーティーからでもそんな人と出会えると思っていた。 でも、私が付き合った男たちは違った。 ヤリ逃げするような男はいなかっただけましかもしれないが、結婚に対する意識は今思えば全然なかった。 最初から明塚みたいに結婚相談所やお見合いを利用すればよかったのか。 そしたら、無駄な時間を過ごさなくても良かったのかも。 「ーーさん?如月さん?」 はっとして顔を上げたら、白河が少し不安そうにこちらを見ていた。 「あ、ごめん。ぼーっとしてて」 「いえ。あ、あの……如月さん、今日、夜空いてませんか?」 「え?」 「もし良かったらごはんとか……聞いて欲しい話があって」 少し顔を紅潮させた白河をみて、私は嫌な予感しかしなかった。
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