45 エピローグ

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45 エピローグ

 マリーです。  あれから大変でした。聞いてください。  臨時王宮議会で平民の議会を作ると決定し、なんやかんやで平民の議会の議長(予定)になってしまいました。  いいんだろうか。別に、私でなくてもいいのでは?  ちょっと疑問に思った。    でも、じゃあ、誰が適任なの? と考えてみた。たしかに資力がある下級貴族、平民に近い人という条件の人間がいなかった。  資力という条件は、別にお金という資力でなくてもいいんだと思う。  資力に変わり、何か学術や有識があるでもいいと思うんだけど。とにかく市井の人々に影響力があるというのが大事なんだろう。  王立学園にはほとんど平民の生徒はいないし、官僚も平民の取り立ては例外を除き、ほとんどない。つまりこの国はそれくらい平民には門戸が開かれてなかった。  平民に能力がない。  私はそう思ったことはない。うちの領民たちは創意工夫をして一緒に領地を盛り立ててくれている。  職人も希望すれば留学でき、女性でもお店をもてる。男も女も力を合わせて働かなくては食べていけない土地だったからだ。  やってみたい。そういうチャンスを男でも女でも生かせるように、お父様も私も領地経営してきた。  おそらく私が初の女性議員で政治に参加すると言っても、理解して快く応援してくれると思う。でも、そういううちの領地の方が珍しいのだろうなあ。  もしかしたら、うちの領地で政治に携わりたい人を募集したら、やってみたいっていう人が出てくるかもしれない。  うちの領民は新しいことやチャンスに貪欲だしね。  故郷に想いを馳せる。  賛成多数で議長になったけど、当然反対して挙手しない議員もいた。(しっかり顔を覚えたけどね。マキウス様に覚えておくんだよと教わったの。)  平民が貴族と同じステージにたつというのを許容できない人もいるだろう。自然に身についた長年の差別意識を取り除くのは難しい。  新しい考えが浸透する新しい世代になるまで、この闘いは続くんだろう。  現実は厳しいなと実感した。とはいえ、時代は待ってくれないわけで。  資本や影響力をもつ者に政治や経済を明け渡す幕開けが来ているわけで。  それに乗り遅れたら、国はつぶれてしまう。それは理解されたようだ。文句を言いつつ、下院議会の設立が決まった。  できたら、ほんとうに議長は断りたかったよ。 そうそう、下院議会という呼び名はね、「王宮議会と平民議会という名前が差別的だとか、平民運動のグループから文句が出るんじゃないか」という意見が出たからだ。 「まずは名称からだな」と議員からの声がでて、「上院議会」と「下院議会」という呼び名になった。  そういう気遣いって大事だよね。ここ王宮議会でも少しずつ意識が変わってきたのかもしれない。 「では、下級議会を設立するため、検討委員会を作りたいと思います」  議長のムアバイア様が議員たちに呼びかける。 「勝手にやらせろ」 「生意気だ。平民に何ができるんだ。すぐにダメになる」などの揶揄が飛んできた。 「下院議会が暴走したら? 皆さんどうするのですか?」  ミグレ侯爵が発言する。 「……」  議員たちが静まり返った。 「王宮議会と王家を不要と結論付けるということもあり得ます。つまり権力を分散しなければならないということですな」 「権力を奴らに与えるつもりか?」  ミグレ侯爵の発言にズミアカ公爵は気色ばむ。 「では、権力を与えないつもりですか? 下院議会を形骸化させると?」  マキウス様が立ち上がって周りを見回した。 「彼らもバカではない。解放戦線や平民運動の活動家が黙っているとは思えません。王家と王宮議会のなれ合いに終止符を打つべきです」  ミグレ侯爵が説得する。 「検討委員会、必要ですね。それに平民に政治の仕組みを学んでもらう必要もあります。あらゆる立場の平民から議員になってもらえたら、カルカペ王国がより発展すると思います」  私が思わず発言すると、拍手が沸き上がった。 「では、検討委員会の委員長もマリー・ヴィスワフ子爵令嬢に兼任してもらうことにしましょう」  ムアバイア様の声に拍手が再度巻き起こった。  しまった。余計なことをした。  マキウス様は表情を変えないように一生懸命笑いを堪えている。  くううう。  仕方がありません。やりましょう。  というわけで、1年後の下院議会設立のため、平民運動の活動家のところに赴いて、説明することになったのでした。  下院議員選挙を行う旨を伝えると、平民運動の方々は一応納得してくれた。解放戦線のリリアが平民運動の活動家と橋渡しをしてくれたので、なんとか穏便に終わった。  ちょっと怖かったけどね。  それから、平民の中でも資本を持ち、各方面に影響を及ぼす商家にも政治が変わることを話し、商工会にも通達を出した。  町の人には理解されてなさそうだったので、カルカペ王国の各領地を周って、参政権について啓もう活動することにしたよ。  「この国を治めるものになるのと、議長になるの、どっちがいい?」と聞かれたあの日を思い出す。  えええ? なんでそんなこと聞くの?  この国を治めるのなんてまっぴらごめんですね。こんなに政情が不安定なのに、苦労しかなさそう。下手したらまた断罪されそうですし。 「しいて言うなら、議長?」  なんのことか分からず答えたけれど。  今考えると、ここが人生の分かれ道だったんだろうな。  結局、私は下院議会の議長になった。もし、この国を治めるとか言ったら、女王に担ぎ上げられていたのだろうか。それとも初の女性首相とかになっていたのか、わからない。  うちの国では首相という役職はないから、きっとその場合は作ったんだろうな。それはそれで、いばらの道だわ。きっと今より大変で、暗殺されそうになったりしちゃうのかもしれない。いやだわ。考えるだけでぞわっときた。私はただ平和に暮らしたかったのよ。  この国を治めるって言わなくて、本当によかった。    前の人生で断罪された日に、下院議会が初開催された。無事選挙も済んで、下院議員も選出できた。これはこれで大変だったんだけどね。割愛しておく。  ちなみにお父様、お母様、アルフレッドお兄様、弟もまだ生きているし、私も元気です。私はというと、もうすぐマキウス様と結婚する予定。  下院議会を軌道に乗せなきゃいけないし、そろそろ幸せになりたいので、これからは大きな選択がないようにお願いしたい。平穏が一番よね。  それと、もう一つ。これは絶対! もう断罪も死に戻りもなしでお願いします。 The end.
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