ダイイングメッセージ

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それはその日の天気予報が外れ、朝から晩まで豪雨だった日のこと______。 佐々幸守は、友人でありルームメイト、左門寺究吾の突然のわがままに付き合わされ、札舞市から少し離れた小樽を訪れたのである。 その日は幸守も久しぶりの休日で、それを満喫してやろうと前の日から意気込んでいたのに、朝、自室で目を覚ますと、枕元に左門寺が立っていたのである。 「今日は雨だよ、幸守くん」 まだ眠たいというのにその声で起こされた幸守は不機嫌になる。そして、部屋の窓を叩く横殴りの雨の音に気が付いた。 「そのようだな」 幸守は素っ気なく答えた。そんな雨音も、左門寺の気配も気にしないようにして、彼は再度眠りに着こうとした時、左門寺はわざわざ彼の耳元で囁くように「デートでも行こうじゃないか、幸守くん」と言ってきたのである。それにはさすがに幸守も驚いた。なぜなら耳元で囁かれるなんて思っていなかったし、しかもその相手が可愛らしいアイドルの子でも、ましてやモデル体型の綺麗な女性でもなく、ルームメイトの左門寺究吾という男だったのだから、よくよく考えてみると気持ち悪い。幸守はすぐさま飛び起きて、「気持ち悪いなッ!」と言い放つ。 「起きてすぐ気持ち悪いなんて失礼な奴だな、君は」 「どこの世界に男に耳元で囁かれて心地良いなんて感じる男がいるんだよ!少なくとも俺にはそんな趣味ねぇぞ!」 「おや、そうだったか。しかしね、幸守くん。この状況を見れば誰だって僕たちは“デキている”と見られるぞ?」 「ここは俺たちの家だから、他から見られることもないだろうが」 寝癖の付いた頭をさらにもじゃもじゃにするように掻き回しながら幸守は言った。その口調は、明らかに左門寺に呆れていた。
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