占い師の実力

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 AI占い師「あいちゃん」登場。  そんな広告をネットで見かけ、私は胸がわくわくするのを感じた。  何しろ、これまで全国の占い師が行った一億人分のデータを取り込んでいるというのだ。  数字の根拠は分からないが、なんか凄い人数なので、信頼できそうな気がする。  これまでのネット占いのような、誰にでも当てはまりそうなパターン文章の組み合わせ、みたいなのとはきっと違うに違いない。  違わなかったら思い切りバカにしてやろう。  占い好き、なめんなよ。  お手並み拝見とばかりに、さっそくAI占い師の「あいちゃん」に占って貰うことにした。  ネット上でやるのかと思いきや、ちゃんと占い小屋があった。  小屋、と言っても野ざらしじゃない。  雑居ビルの三階にあるスペースに作られていた。  一見すると雑な紫色の布で作られたテントみたいな小屋からは、ただならぬ雰囲気を感じた。  占いというのは雰囲気も大事だ。  神秘的な雰囲気が、超常的な力を感じさせ、それが信ぴょう性というものにつながってくる、と私は思っている。だから、自分の部屋で画面越し、ではダメなのだ。  少し待つと受付のお姉さんが恭しく私を小屋の中へ入るよう促してくれた。  暖色系の明かりに照らされた薄暗い室内。大きなモニターの前に古風なひじ掛け付きの椅子がある。 「お座りなさい」  突如そんな声が聞こえ、私はその声に従って椅子に腰かけた。  すると、モニターの表面が不意に揺らぎ、ジワリと滲み出すように人影が映し出された。  ローブ姿で頭巾をかぶり、目の部分だけが見えている。いかにも占い師、という感じだ。 「ようこそ、あいちゃんの占い館へ」  ここは少し改善の余地ありかもしれない。 「お名前は?」 「あ、楠本ひよねです」 「どんな字を書くのですか?」 「えーと、くすのき、ほん、こよねは平仮名です」 「良い、お名前ですね」 「では、生年月日と血液型を……」    言われるまま、私はあいちゃんに情報を与えた。  あいちゃんは一呼吸おいてからにこりと笑う。  いや、笑ったように感じた。小首を傾げ、目の形が少し変わったからかもしれない。 「あなたを導きましょう。知りたいことを仰って下さい」 「え、選択式じゃないんですか?」 「何でも、あなたの知りたいことを仰って下さい」 「え、えーと……なんだろう」  てっきり、何について知りたいのか、とかは選択式の質問をクリアしていくもんだと思っていた私は、突如枷を取り外されて戸惑ってしまった。 「私はあなたのどんな悩みにでも寄り添いましょう」 「じゃ、じゃあ、私のこれからの人生について」 「これからの人生について、でよろしいですか?」 「は、はい」  頷きつつ、私は少しアバウト過ぎたかも、と後悔をした。  これだと、逆にどんな答えでも受け入れざるを得なくなってしまう。 「ではまず、手のひらを見せてください。こう、私の方に突き出す感じで」 「は、はい」 「ふむふむ……なるほど……。では、次に目を見せてください。画面に近寄っていただければ……」 「は、はい」 「綺麗な目をしていますね」 「あ、ありがとうございます……」    いやいや、相手は機械なんだから。  何を私はドキドキしてしまっているのよ。 「わかりました。あなたの最大の試練は、これから一時間以内に始まります。しかし、それを無事に乗り越えた暁には、溢れかえる自然の中、穏やかでありふれた人生が待っているでしょう。概ねにおいて幸せのまま、五千七百歳ほどでその生涯を閉じるようです」 「は?」 「以上であなたの今後の人生についての占いは終わりです。ありがとうございました。入ってきたところから出て、占いの終了をお伝えください……」 「ちょ、ふざけないでよ。でたらめばっかりじゃない。これからの試練が一時間以内? 寿命が五千七百歳? そんな人間いるわけないじゃない!!」  すうっとあいちゃんが消えていく。  私は思わずモニターに掴みかかった。 「待ちなさいよ!! って、あ……」  立ち上がった拍子に足がもつれた。  と、思ったら盛大にすっころぴ、私は顔面からモニターにつっこんだ。  すさまじい衝撃に、私の目の前は真っ暗になって……。
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