第12話 海鳴り亡霊

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                3  十二月のアミティエは空いていた。普段なら、お昼時ともなれば腹を空かせた学生や授業と授業の合間の時間つぶしで集まってきた学生たちで混雑するのだが、今はひっそりとしていた。BGMのクリスマスソングが寂しげに響いている。  久保田は窓際の席に座り、たばこを吸いながらホットコーヒーを口に運ぶ。  結局、久留美とは明け方まで話し込んでしまった。青木の件には触れず、年明けから始まる後期試験内容のことや新宿のライブハウスのスケジュール、どうでもいいような雑談で終始した。おかげで今頃になって急に眠くなって、久保田は三本目のたばこに火をつけた。腕時計に目を落とす。約束の時間を十五分ほど過ぎていた。  現代と違って、当時はスマホもラインもない時代である。スマホ片手に連絡はできないのだ。ひたすら待ちぼうけを食うかすっぽかされるかのどちらかだった。  吸い殻が三本になった時、アミティエのドアが開いて久留美と潤子が入ってきた。 「ゴメン、遅くなった。おわびにお昼ごちそうするよ」久留美がちょこんと頭を下げた。「でもさ、ちょっと言い訳させて」 「じゃあ、サブウェイの生姜焼き定食が食いたい」  サブウェイというのは、男子学生と近所のサラリーマンに人気の飯屋である。昼は定食中心で、夜になると居酒屋になる店だ。久保田と青木はサブウェイの常連だった。 「うわ、おっさんくさいよ。ミスター・ドーナツって言うかと思った」  久留美は笑った。ミスター・ドーナツは、最近、アメリカから出店してきたファーストフードである。女子学生に人気があることは、久保田も知っていた。  潤子が手を上げ、遮るように久保田と久留美の間に入った。「実はさあ、わたしも見たんだよ。そのことを久留美の話してたら、遅くなったあ」 「えー? ホントかよ」  久保田はたばこをもみ消し、身をのりだした。 「うん。昨日の午後さあ、図書館でさあ、みたよ。…最初はよく似た人だなあって思ったんだけど、でね、気になってあとつけてみた」 「おう、それで?」
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