誘惑

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誘惑

春久(はるひさ)ー。わかってると思うけど、明日は早く帰ってきてねー」 「わかってるよ」  明日は俺と小夏が付き合って四年目の記念日。だから早めに帰ってちょっとしたパーティーをするんだ。  いつものように仕事を終えて、帰路につく。さて、早く帰ってやんないとな。  いつも通り駅に向かっていると。 「いらっしゃいませー。おいしいジュースはいかがですかー?」  小さな箱を両手で抱えた俺より少し年上っぽい女の人がジュースを売っていた。珍しいな、こんなところで。  俺の視線に気がついたのか、ジュース売りの女性が俺に駆け寄る。 「あ、そこのお兄さん。どうです? ジュースおひとついかがですか? 一本、百六十円です」 「え、あ……」  どうしよう。まさか声かけられるとは思ってなかった。 「りんごやオレンジ、ミックスジュースにチョコオレンジジュースもありますよー」 「チョコオレンジジュース!?」  ほお……、あんまりここらじゃ聞かないし、ジュース自体も買うことがないから、ちょっと惹かれた。 「お試し飲みもできますよ」 「それならいただきます」  俺は女性からカップに入ったジュースをもらう。  ゴクゴクゴク。  ……はあ、うまい。仕事帰りに飲むと、こう、疲れが飛ぶ。 「ふふ、気に入っていただけましたか?」 「はい! あ、これ二つ買います」  女性はニコニコしながら、缶ジュースを二つ渡してくれる。  俺は二本分お金を渡す。 「ふふ、ありがとうございます。では道中お気をつけて」  いい買い物したなあ。  きっと小夏、喜ぶだろうなあ。
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