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わたしたち
彼女は学校という小さな世界のヒロインだった。
女子校という限られた場所では、清楚さより派手な見た目をしていたほうがスクールカースト上位になれる。
彼女は髪を明るいブラウンに染めて巻き、風で吹き飛ぶのではないかと思うほど長いまつ毛を揺らして、同じように華やかな女の子たちとよく笑っていた。
私といえば、スクールカースト最下位。
ノートを広げると、「バカ」とか「出てけ」と黒いマーカーで書かれている。
私と彼女は別世界の住人だった。
いじめられているはずなのだが、生徒たちは遠巻きに私を見てくすくす笑うだけで何もしてこない。
男子もいる共学ならまた違ったのだろうけど、目立たなくて地味な私をからかう彼女たちの幼さを、あえて教師に伝える気もなかった。
退屈な日常で、少しだけ不快なことがある。
ただそれだけなのに、彼女が私に対してあわれむような視線を注ぐときだけ、私は泣きたくなる。
私たちは幼なじみで、小学校低学年くらいまでは毎日のように学校が終わったら遊んでいた。
「ねえ見て、カブトムシ」
虫が苦手な私は、勇敢にカブトムシや蝶をつかむ彼女に追いかけまわされ、土日は決まって私のうち、または彼女のうちに呼ばれて一緒に昼食をとった。
親同士は今も仲が良い。
いつから、こうなってしまったのか。
小学生なのにメイク道具や可愛いポーチを持って、小学生用のブランドの服をまとった女の子たちが、彼女に声をかけたときからかもしれない。
彼女が私から離れても、私は彼女と同じ進学先を選んだ。
家からいちばん近くにある中高一貫の女子校なので、彼女も不審に思っていないようだった。
いつしか彼女たちはおしゃれな女の子たちのグループの中でも目立つ存在になって、私は学校に友達のいない陰キャのポジションを得た。
その日も、朝、靴箱を開けたら中が泥だらけになっていた。
面倒くさいと思いながらため息をついた。
すると、びっくりすることが起こった。
彼女が私の背後からのぞきこんで、「ひどいね」と言い、しばらくしてから先生を呼んできたのだ。
彼女は自分の手を汚して、靴箱をタオルで拭く。
私は信じられない気持ちで彼女を見ていた。
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