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そんな二人の様子を、二階の病室から見ていると相川が「ちょっと!」と言ってくる。
「聞いてる?」
「ああごめん。ぼーっとしてた。何?」
「だからあ、このバッグがね」
スマホで見せられた画像はデザイナーオリジナルブランドのバッグだ。どうやら数量限定だったらしいが買えたのでご機嫌らしい。
「梅沢君って話面白いし優しいよね、あのバカ男とはウンテイの差」
「あはは」
雲泥の差だろ、本当に馬鹿なんだなこの女。内心鼻で笑いながら、にこにこ笑う。
世の中のどの女に「虫」がいるかわからない。だったら確実にいないとわかっている女とやるしかない。茜はだめだ、自分の見ていないところで饅頭を食べたかもしれない。嘘をつかれるかもしれない。旅館で食べたアケビがもしかしたら虫入りだったかもしれない。
しかし、この女は。虫を坂本に移しているし、茜の持っていた饅頭を渡されていない。嘘をつけばすべて顔に出る。絶対にいないと確信が持てる。
中年オヤジにも股を開くクズだ、自分にもすぐに股を開くに決まっている。性病にだけはかからないように気を付けよう。せっかく虫を移しても、早死したら意味がない。
先ほど見た、どこか楽しそうな坂本と茜の姿が頭をよぎる。
――あいつら付き合うのかな。まあいいや、坂本には虫がいるし、茜はもしも虫がいたらどっちか片方が死ぬだけだ。好きにすればいい。
坂本の虫について聞かされていない梅沢は暗く笑う。見当違いのマウントを取っているとも知らずに。
「なーにニヤニヤしてんの?」
「ん? 相川さんと二人でいられて嬉しいなって。ねえ、坂本と別れたんなら俺とかどう? 前から可愛い人だなって思ってたんだ」
「え~? どうしようかなあ。あ、でも山でちょっと酷い事私に言わなかったっけ?」
「ごめん、あの時は精神的にやばくてさ。最低な事言ったよね。どうしたら許してくれる?」
「まずそうだなあ。行きたいところがあるから~」
――ヤったら、学校やめて引っ越そう。こいつも、あいつらも、寄生虫どもの傍にいるなんて御免だ。気持ち悪い。
内面を完璧に隠し、相川と個人の連絡先を交換すると梅沢は満足そうに微笑んだ。
(了)
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