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夜の静けさの中で
シャオが何をしようとしていたか、アランにはお見通しのようだった。
もちろん、シャオには人がいる所を外す自信があるが念の為だ。アランは間違っていない。
シャオは頷き、そのまま部屋を出ようと頭を下げた。だが、アランは毛布から手を伸ばし、シャオの腕を掴む。
その強さに昨日の情事の記憶が戻り、シャオの顔は赤くなり、そうこうしているうちにシャオは今まで寝ていたベッドに戻されてしまった。
「あ、主!」
「……名を呼べと言っただろう」
アランによってせっかく身に着けた服をまた剥がされてしまう。再度裸体になったシャオの上に、アランの肌が密着する。
ーー冷たい。
手が、足がーー、全てが寒い。寝る前の情事の熱さが嘘のようにアランの体は冷えきっていた。
それを戻すかのようにアランはシャオの体を抱き締める。
「あ、主、外にいる者に頼んで毛布をーー」
「いつもだ。この寒さは」
「えっ」
アランはそう言って1層強くシャオを抱きしめた。
腕の力だけでここまで出せるとは。身動きができそうにない。
「病が治ってから……、 これが病のせいか、薬のせいかは分からないが、俺の体は常に寒さがまとい続けていた。湯で暖められても直ぐに冷めてしまい、暖炉の火や毛布をどれだけ使おうと、俺の芯が暖まることはなかった」
「……そ、それは、気づかず、申し訳ありません」
「だが、お前は暖かいな 」
「えっ……」
「お前の手や体、口の中までーー、全てが俺にとって沸騰するくらいに暖かい。お前の気持ちが昂ると、もっと熱くなり、触れた俺の手にしつこいほど残る」
そう言いながら、アランはシャオの口内に舌を入れた。
ぐるりとシャオの口内をアランの舌が這う。それに体は簡単に反応し、直ぐに熱を持ってしまう。
「あ、る……じぃ……!」
「名を呼べというのに」
叱る言葉だというのに、アランの声色は優しかった。その優しさに全てを委ねてしまいたい気持ちになる。だが、そうはさせぬと自分を律し、アランの胸板を押した。
「どうした?」
「も、もう部屋に行きます。ですから……」
『ここにいろ』
「……ッ」
従属魔法でシャオの身体はベッドに縛り付けられる。このままではここから出ることも叶わない。
やめて欲しいと言おうとしたのに、アランの嬉しそうな顔を見てしまえば言おうとした気持ちが直ぐにしぼん出しまう。
だが、もう完全にシャオもアランも目が覚めてしまった。
さすがに昨日の様な情事をする訳にはいかないとシャオは自分の体を抱きしめているアランに静かに問う。
「……主」
「名を呼べ」
「…………アラン、様。話をして、よいですか?」
「ああ」
「その……、アラン様は、ご自身の足の麻痺が私の薬によるものだといつからお気づきで?」
「……違和感があったのは、ベッドから起き上がれるようになってから。それがルカと話をしてさらに強まった。奴は俺に足の麻痺が残ったことに対して、直ぐに薬のせいでは無いかと勘づいていた。そしてネズミへの実験をし、それが確証に変わった」
やはり、ルカが来た後すぐにネズミを取りに行かせたのはそういう事か。いつ話したのは分からないが、シャオが追い出されている時間や部屋を準備する時間に何時でも話せるタイミングはあっただろう。
「…………なぜ、私に話してくれなかったのですか?」
シャオの声は震えていた。
ルカが言ったことを信じた訳では無い。だが、薬についてなら作ったシャオに聞くのが筋だろう。何も分からないルカに一から研究させるほど、アランは気長ではないはずだ。
「もし、薬の試作が出来たらそれを人の体で試すことが必要になるだろう」
「え、ええ。ですが、それはルカの故郷の村が」
「俺が飲んだ」
「はッ……?」
思わずシャオは目を大きく開けた。その表情が余程面白かったのだろう。アランはくすくすと笑い声を上げた。
「お前の薬で足の麻痺が残っている人間はこの世界で俺のみだ。ならば、俺がその薬を飲むのが筋ではないか?」
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