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1章ー1
ガンガン効いた店内の冷房。
けたたましく流れる流行の曲と、購買意欲かき立てる特売品。
15時前なのでお客は少ない。快適だ。
黒とセミロングの髪型で、平面的な丸顔に目鼻立ちが大きい背が高めの女性――吉永咲月は、精肉コーナーの前で、店内用の買い物かご片手に眉をひそめた。
今日はカレーにしようか。
具は義理両親からもらった人参とジャガイモをあらかじめ切って冷凍した。
ここで一番の目玉である牛肉を買うぐらいだ。
いつも切ってあるタイプを買う。
ちょっと奮発して国産にしようか。
いや、でも……アメリカ産の方が安いな。
どっちにしようか少し迷う。
娘は16時過ぎ、夫は18時過ぎに帰ってくるから、今のうちに食材を買って、自動調理器で予約すれば大丈夫。
カレーで使うお肉の具の話だが、咲月の脳内会議で、両方買うことにした。
家族みんな好きだし、数日使い回すことが出来る。
肉の種類までみんな気にしていない。
美味しく食べれるかどうかの話だ。
牛肉を2パック買って、残りの買い物をしようと、移動した瞬間――「あら、吉永さん?」と咲月の耳朶をついた。
心地良い、上品な声。
振り向くと女性がいた。
背は咲月と同じぐらいで、黒い髪は腰まで届く。
丸顔で眉と口が近く若く見え、少し華奢だ。
咲月は「石塚さん、こんにちは」と顔見知りの女性に、声をはずませる。
「あ、あの、良かったら、一緒にお支払いしましょうか? さっきから、悩んでらっしゃったので。かごにも沢山入ってますので」
咲月の買い物かごには、カレーの食材以外にも、カップ麺、トイレットペーパー、米類など生活用品が入っている。
地味に重たいものだらけだが、これぐらいの重さなんて平気だ。
咲月は「えっ!? い、いやそこまでしなくていいですよ……」と体を後ろに引いた。
同じマンションの人にいきなり一緒に支払いますよなんて言われて、どうリアクションしたらいいの?
ここは断るべきよと、いや、ちゃっかり甘えちゃいなと天使と悪魔が咲月の耳に囁く。
「いいの! いいの! 私のと一緒に払うから!」
石塚は咲月の買い物かごから、商品を自分の方へバンバン入れていく。
「あ、いえ、じ、自分で……」と言った瞬間、石塚は「いいのよ! かご返してらっしゃい」と言われた。
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