エピローグ

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「出してくれ」  龍之介が運転手にそう言うとオープンカーはゆっくりと出発した。 「龍之介さまぁぁ~!!!」 「ご結婚淋しいです!!!」 「でもおめでとうございます!!!」  オープンカーが通った場所には若い女性たちの黄色い悲鳴が起き、それ以外の人々は「綺麗な花嫁さんだな」「美男美女で俺と母ちゃんとはえらい違いだ」などとそれぞれの感想を述べ、菓子や団子が振る舞われると喜びの声が上がった。  見物人が花嫁花婿の車に近づかないように倉島邸と松尾邸の下男や臨時で雇われた体格の良い男たちが警備に当たる中、通り過ぎるタマと龍之介に多くの人々が手を振った。  手を振り返すタマと龍之介に人々は笑顔になり、「お幸せに!」「おめでとう!」の声が絶え間なくあちらこちらから聞こえてくる。    嫁入り道中という名のパレードで賑わう人々に紛れる幼子たちの目にタマの美しい姿は現実とはかけ離れた幻想的なものに映った。  赤ん坊を背負った子どもが大声でタマに言った。 「お菓子とお団子ありがとうございます!!!どうして饅頭ではなくお団子なんですか!!?」  タマは満面の笑みで答えた。 「それは幸せの団子だからだ!!!」  それを聞いた若い未婚の娘たちは大騒ぎをした。 「幸せの団子だって!!」 「あの団子を食べたらあたしたちも素敵な華族様と結婚できるかも!!?」  この日から山田屋のみたらし団子は幸せの団子という噂が広まり、山田屋は繁盛した。    沢山の人に祝福され華やかで幸せそうなタマの白無垢姿は全女性の憧れとなり、平民でも華族と結婚できるという独身女性たちの希望となり、嫁入り道中後は、タマが町など人目のつく場所へ行く度に、その時のタマの髪型や服装を真似する女性が続出した。  この年に生まれた赤ん坊には『タマ』と『龍之介』の名が多く付けられ、タマと龍之介は理想の夫婦の代名詞となった。
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