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1年後、タマのお腹には新しい命が宿っていた。
土曜日の温かな昼下がり、伯爵邸の中庭には桜が咲き誇り、淡い青空を淡い桃色が彩っている。
タマと龍之介は中庭の四阿の長椅子に肩を並べて腰掛け、みたらし団子を食べながら花見をしていた。
「綺麗だね」
龍之介が微笑みながらそう言うとタマが団子を頬張りながら口角を上げて空を見上げた。
「ああ!綺麗だ!!」
そのときタマの大きくなったお腹の中で胎児が動き、タマは軽く蹴られたような感覚を覚えた。
「赤ちゃんも綺麗だと言っている!!」
驚きながらも目を輝かせて言うタマに龍之介は更に微笑んだ。
中庭の散歩を終えて四阿へ戻ってきた総一郞とタマの母親であるかやと祖母のふみは、龍之介の肩にもたれてうたた寝をしているタマの肩を抱き寄せた龍之介が、タマを起こさないようにそっと自身の羽織を脱ぎ、タマとタマの腹の中の子が冷えないように正面から羽織を肩に掛けている光景に立ち止まった。
龍之介は愛おしそうにタマを見つめ、額にそっと優しくキスをして、この上なく幸せそうに微笑みながらタマの寝顔を再び見た後、まぶたを閉じてタマの頭に頬ずりをした。
総一郎とかやとふみは表情をほころばせながら互いに顔を見合わせ、もう1度散歩へ行こうとした。そのとき、愼志朗に連れられてこちらへ歩いて来る松尾家の一行の姿が見えた。
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