1章

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1章

 私はなぜこんな派手な服を着ているのだろう。  周囲の私を見る目線が突き刺さる。それはまるで、初めて見る生命体へ向ける表情である。  私はなぜこんなメロン柄のワンピースを着ているのだろう。  しかも、仕事帰りに。  そもそも仕事終わりにそそくさと更衣室に入って、このオレンジ色が基調でメロンの柄がふんだんに仕込まれたワンピースに着替えたのは私なのである。後悔こそすれ、自分の意志で決断したのである。  それにしても、そんなにメロン柄のワンピースを着た女が珍しいだろうか?  いや、まあ珍しいだろう、珍しいにきまっている。なぜならこれは、メロンの表面の模様をかたどったものではなく、メロンそのもののイラストが数多に描かれたワンピースだからである。りんごやレモンなら見たことはある人が多い気がするが、メロンはないだろう。  ましてや「メロンはメロンでもこれは夕張メロンですよ」と言わんばかりにワンピースは派手なオレンジ色である。目立たないわけがない。  もし私が、そのような服をめかしこんで買い物をしている人を見たならば、溢れる鼻息を抑えて近くまで見に行ってしまうだろう。  あらためてスーパーのガラス什器に反射した自分の姿を見る。こんなの、まるで漫画のキャラクターではないか。いや、漫画のキャラクターでも見たことはない。「私メロン姫。主食はもちろんメロン。昼夜問わずメロンを愛でているのよ」と言いながら、メロンを常に抱きかかえているメロン王国のメロリーナ王女でも、こんなワンピースは着ないのではないか。  私は密かにメロン売り場に近づいている気がして、野菜売り場から離れた。メロンがメロンのところにいたら、他の客から格好の的である。  そもそも、なぜ服はもっぱらネイビーとか、黒基調のダーク色のものばかり着ていた私が、突然こんなメロン柄のワンピースを着ているのか。  答えは簡単である。占い師に勧められたのだ。  では、いくら占い師に勧められたからといって、なぜ普段地味な私がこんな派手なワンピースをわざわざ買って着ているのか。  それは「運命的」なものを感じたからである。
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