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一.
切り立った岩盤を両手のピッケルのみで上り続けること、三時間半。
右手のピッケルを振りかざし、斜め上の岩肌に打ち付ける。
と、これまでの道程では確かな手応えと共に固定されてきたピッケルが弾かれ、岩の表面を剥がし僕の頭上へと降らせてきた。
「わ!?」
左手に体重全てがのしかかり、慌てて右手をもう一度振るおうと狙いを定めたその瞬間、崩れ落ちてきた岩が僕の左肩を直撃した。
「あぁっ!」
左手がピッケルから離れ、僕は深い谷底へと真っ直ぐに墜落し始めた。
必死に何でもいいから掴もうと両手足を広げバタつかせ、何度か指先に触れるものはあったものの、落下の勢いは止まらない。
「これまでか……!]
と覚悟を決めたその時、反対側の崖の中腹辺りから、焦げ茶色の大きな影が僕へと一直線に向かってきた。
「!?」
その影は空中で僕を獣のような太く逞しい両腕で抱きかかえると、力強く羽ばたき、ゆっくりと降下し、やがて深い木々に覆われた地面へ静かに降り立った。
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