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 但し、無表情仮面の難点は多くの相手に仏頂面と受け取られること。しかし、一見、機嫌が悪そうにも見える奏人の表情を煌は気にも止めず、上官が読んでいる本を覗き込んでいる。 「読むか?」  今は、練兵を終えた後の休憩時間。各々が好きなことをして過ごしているのだから、興味があるならば貸すつもりでの提案だったが、花宮煌は緩く首を振った。 「いや、遠慮しときます。それよりも——今夜、部屋に行くので、そのつもりでいてくだださい」 「わかった」  それよりも、の後、声を落として続けられた言葉に諾了を即座に返した奏人だったが、その内心には疑問の声が大きく響いていた。  花宮軍曹、本気か? 彼は本当に来るつもりなのか? 今夜は満月ではないぞ。  通達が終われば、もう奏人には用は無いとばかりに足早に去っていく長身の後ろ姿をじっと見つめる。引きとめて問いかけたいが、実際にそうするわけにはいかないため、ただ黙して見つめるのみ。
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